唐津焼

唐津焼（からつやき）

唐津焼は、近世初期から現在の佐賀県東部・長崎県北部にかけて造られた陶器の総称です。日常使いの雑器から茶器まで、様々な種類の器が作られており、その作風や技法も多岐にわたります。特に茶碗は古くから「一楽二萩三唐津」と称され、その名声は高く、分派である武雄古唐津焼と共に、日本の伝統的工芸品に指定されています。

歴史

唐津焼は、近世初頭から肥前国（現在の佐賀県および長崎県）に点在する窯で生産された陶器の総称です。「唐津焼」という名前は、製品が唐津の港から出荷されていたことに由来すると言われていますが、確かな情報ではありません。古唐津の窯跡は、現在の唐津市だけでなく、佐賀県の武雄市、伊万里市、有田町、長崎県の佐世保市、平戸市など、広範囲に分布しています。特に、唐津市南部の旧北波多村や旧相知町には、初期の古唐津の窯跡が残っています。

一般的に、伊万里や唐津などの肥前地域の陶磁器は、文禄・慶長の役（1592年～1598年）の際に、朝鮮半島から渡来した陶工たちが故郷の技術を伝え、開窯したことが始まりだとされてきました。しかし、近年の窯跡調査や、堺などの消費地での陶片の出土状況から、唐津焼の創始は文禄・慶長の役よりもやや早く、1580年代に始まったと考えられています。

千利休が所持していた道具の中に、唐津焼の一種である奥高麗茶碗「子のこ餅」があったことや、長崎県壱岐市の聖母宮に1592年の銘がある黒釉四耳壺が現存することから、唐津焼の生産開始は少なくとも1591年以前であることがわかります。文献上では、古田織部の1603年の茶会記に「唐津足有御水指」「唐津焼すじ水指」という記述が、唐津焼に関する最初の記録とされています。

江戸時代の俳論書『毛吹草』（1638年成立）には「唐津今利ノ焼物」という記述があり、「唐津」が陶器、「今利」（伊万里）が磁器を意味すると解釈されています。瀬戸内海沿岸や山陰、北陸などの日本海沿岸地域では、陶器を「せともの」ではなく「からつもの」と呼ぶことがあり、「唐津」は肥前産の陶器の代名詞となっていました。

古唐津の初期の窯跡は、波多氏の居城があった岸岳山麓（現在の唐津市北波多地区・相知地区）に点在しています。岸岳古唐津の古窯群は、飯洞甕窯系と帆柱窯系に分けられ、藁灰釉を用いた「斑唐津」は帆柱窯系で生産されました。窯は朝鮮式の割竹形登窯で、特に飯洞甕下窯跡には窯床と窯壁の一部が残っており、貴重な史跡となっています。

文禄・慶長の役以降、肥前陶器の産地は広がり、窯の所在地によって松浦系古唐津（伊万里市など）、武雄系古唐津（武雄市など）、平戸系古唐津（平戸市）などと呼ばれるようになりました。中でも、藤の川内窯、市ノ瀬高麗神窯、甕屋の谷窯などは、絵唐津の名品を焼いた窯として知られています。

唐津焼は、草創期には食器や甕などの日用雑器が中心でしたが、次第に質朴さと侘びの精神が茶の湯の道具として好まれるようになり、茶碗、皿、鉢などが作られるようになりました。唐津の焼き物は京都や大坂などにも販路を広げたため、西日本では陶器全般を「からつもの」と呼ぶほどになりました。桃山時代には茶の湯の名品として知られ、「一井戸二楽三唐津」と格付けされました。

江戸時代に入ると、窯場の増加による燃料の薪の濫伐が深刻な問題となり、鍋島藩は藩内の窯場の整理・統合を断行しました。その結果、窯場は有田に集約され、唐津焼も大きな影響を受けました。しかし、唐津の茶器は全国的に評判が高かったため、茶陶を焼くための御用窯として存続しました。この時期に作られた焼き物は、幕府への献上品として作られたため、「献上唐津」と呼ばれています。

明治維新後、藩の庇護を失った唐津焼は急速に衰退し、有田を中心とした磁器の台頭もあって、多くの窯元が廃窯となりました。しかし、後に人間国宝となった中里無庵が「叩き作り」など伝統的な古唐津の技法を復活させ、再興に成功しました。現在では約50の窯元があり、伝統的な技法を継承しながら、新たな作品にも挑戦し、時代の変化に対応しています。

唐津焼の特徴

唐津焼の特徴は、李氏朝鮮から伝わったとされる伝統的な技法が現在も根付いていることです。特に、蹴轆轤や叩き作りといった技法は古唐津から伝わるもので、現在もこれらの製法を行っている窯があります。窯は連房式登窯という大規模な窯を用い、1300度の高温で焼き締められます。意匠は茶器として名声を馳せただけあって、非常に素朴でありながら、独特の渋みがあります。

唐津焼の種類

唐津焼は時代によって様々な種類の焼き物が作られました。主なものとして以下のものがあります。

絵唐津: 鬼板と呼ばれる鉄溶液で花鳥や草木などの意匠を描き、透明な釉薬をかけて焼成したもの。
朝鮮唐津: 黒色の鉄釉と白色の藁灰釉を掛け合わせ、風景を表現したもの。
斑唐津: 藁灰を混ぜて焼成することで、粘土に含まれる鉄分が青や黒などの斑になったもの。
三島唐津: 朝鮮の三島手の技法を取り入れ、雲鶴や印花紋などの紋様を施したもの。
粉引唐津: 褐色の粘土を使用し、化粧土を全面に掛け、釉薬を掛けたもの。
奥高麗: 高麗茶碗の井戸、呉器、熊川風の造形の茶碗で、通常は無地。
* その他: 瀬戸唐津、青唐津、黄唐津、彫唐津、刷毛目唐津、櫛目唐津、蛇蝎唐津、二彩唐津などがあります。

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