四稜郭

四稜郭（しりょうかく）は、日本の近代史において重要な転換期となった幕末、特に箱館戦争の終盤に、五稜郭を拠点としていた蝦夷共和国（箱館政権）が、その防御網の一環として緊急に構築した簡素な要塞（堡塁）です。現在の北海道函館市陣川町に位置し、五稜郭からは北方に離れた地点に築かれました。別称として、築城された場所や同時期の呼称に由来する「新台場」、「神山台場」、「新五稜郭」などとも呼ばれることがあります。この歴史的な遺構は、国の史跡に指定され、当時の緊迫した情勢を今に伝えています。

立地と築城の背景

榎本武揚が率いる箱館政権は、戊辰戦争最後の戦場となった箱館において、五稜郭を本拠地としていました。四稜郭は、この五稜郭の防御力を強化するための支城として、また近傍に位置する北海道東照宮を守護する目的も兼ねて築かれたとされています。その構築時期に関する詳細な記録は少ないものの、『四稜郭史』に収録された古老の証言などによれば、1869年（明治2年）4月下旬頃に建設が開始されたと推測されています。築城は極めて急を要するものであり、城内に詰める士卒約200名に加え、周辺の赤川、神山、鍛冶村といった集落から集められた住民約100名が動員され、ほとんど昼夜の区別なく突貫工事で数日間で完成に至ったと言われています。

特徴的な構造

四稜郭の構造は、その名の通り、蝶が四方に羽を広げたような、あるいは不完全ながらも星型要塞の一部を思わせる独特の形状をしています。全体の規模は東西方向がおよそ100メートル、南北方向がおよそ70メートルの範囲に収まっています。防御施設としては、幅約5.4メートル、高さ約3メートルに及ぶ土塁が周囲に盛り上げられ、その外側には幅約2.7メートル、深さ約0.9メートルの空堀が巡らされていました。郭の南西側には出入り口となる門口が設けられ、その奥には幅およそ0.9メートルの通路が続いていました。郭内の面積は約2,300平方メートルほどで、土塁の四隅には敵を迎撃するための砲座が配置されていましたが、兵舎などの建物は築かれませんでした。

建設の指揮は、榎本軍の要人である大鳥圭介らがあたりました。設計者については、徳山藩に関連する史料『奥羽並蝦夷地出張始末』の中に「仏人フリヨネー」という記述があり、これはフランス陸軍の士官であるジュール・ブリュネ大尉であると推測されています。

呼称と戦況

四稜郭は、構築した榎本軍側では当時から「四稜郭」と呼ばれていました。一方、官軍側の記録には「神山台場」と記されているものが多いほか、岡山藩や福山藩といった諸藩の記録には「神山新五稜郭」や「新五稜郭」といった名称も見られ、当時の様々な呼称が存在したことがわかります。

箱館戦争の終盤、1869年5月11日に行われた箱館総攻撃において、四稜郭は権現台場など他の周辺要塞と共に官軍の猛攻を受け、陥落しました。大鳥圭介の著作『幕末実戦史』などの記述からは、この堡塁が十分な完成を見ないまま、戦闘を迎えた可能性が高いと考えられています。

史跡としての保存と現状

箱館戦争終結後、四稜郭の遺構は長い間荒廃が進んでいましたが、その歴史的価値が認められ、1934年（昭和9年）1月22日に国の史跡として指定されました。史跡指定後、遺構の保存と環境整備が進められることになります。旧亀田町（後に函館市と合併）によって、1969年度（昭和44年度）から1972年度（昭和47年度）にかけて、土塁の修復などを含む環境整備工事が実施されました。合併後の函館市も、1990年（平成2年）以降、断続的に再整備事業を続けており、現在もその姿は比較的良好に保たれています。

現在の四稜郭周辺は閑静な地域であり、特に5月頃には付近一帯がスズランの花に覆われ、美しい景観を楽しむことができます。また、2002年（平成14年）5月26日放送のNHKのテレビ番組『新・クイズ日本人の質問』では、「五稜郭を見るうえで重要なもの」の一つとして紹介されるなど、箱館戦争の歴史を理解する上で重要な場所として、広く認識されつつあります。

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