地図記号

地図記号とは

地図記号は、地図上で地形、道路、施設、土地の状態などを視覚的に表現するための記号です。これには、建物や植生を示すシンボルマークだけでなく、等高線や行政界を表す境界線も含まれます。地図記号は、限られた紙面で多くの情報を伝えるために不可欠な要素です。

地図記号の種類

地図記号は多岐にわたり、建物を表す建物記号、森林や農地などの植生記号、道路や鉄道などの路線記号、鉱山や港などの特定地区記号、地形を表す表記図、国境や県境などの行政界、ダムや鉄塔などの人工構造物記号などがあります。また、土地測量の基準となる基準点記号も含まれます。建物記号は特定の建物を指しますが、植生記号は記号周辺の一定の範囲を示します。

地図記号の由来は様々で、温泉のように事象の形状を記号化したもの、税務署や病院のように事象の役割や機能を連想させるもの、市役所のようにどちらにも分類できないものがあります。地図記号は、地図作成機関、国、時期、縮尺、図式によって異なり、統一されたものは存在しません。そのため、地図には凡例が付属し、記号の意味を解説するのが一般的です。

地図記号の目的

地図記号の主な目的は、狭い紙面にできるだけ多くの情報を分かりやすく示すことです。等高線、地形、道路、建造物などが重複する場所でも、記号を使って効率的に情報を伝えます。例えば、建物の用途や国道番号などを記号で表現します。一方、空港や大学のように広い敷地を持つ場合は、記号ではなく直接文字で表記することがあります。

また、地図記号は小さすぎるものを分かりやすく表現する役割も担っています。縮尺の小さい地図では、道路や建物を実際よりも誇張して描いたり、民家をまとめて表現したりします。しかし、縮尺の大きい地図では、道路や建物を縮尺通りに描くことができ、記号による誇張表現は不要になります。基準点や記念碑のような点状のものは、誇張表現によって視認性を高めています。

色の使い分けも地図記号の一部です。以前は色数を抑える必要がありましたが、現在では多色刷りが一般的になりました。ただし、過剰な多色化は視認性を損なう可能性があり、特に色覚異常を持つ人にとっては識別が難しくなることがあります。

さらに、地図作成においては「何を描かないか」という選択も重要な要素です。

各国の地図記号

日本

日本では、国[[土地理院]]が地図記号を定めており、規格化されたものが地形図などで使用されています。日本の近代地図製作は、ドイツの地図作成手法を参考に始まり、そのためドイツの地図記号と類似点が多く、軍事に関わる事物について詳細な記号化がされています。例えば、戦前は軍事行動に支障がない「空き地」と「畑」は区別されていませんでしたが、「水田」は詳細に区別されていました。戦後、国[[土地理院]]が地図製作を担当するようになってからは、「畑」「桑畑」「茶畑」が区別されるようになり、逆に「乾田」「湿田」「水田」の区別はなくなりました。

鉄道記号は、世界的には路線の規模や規格によって表記を変えるのが一般的ですが、日本では営業母体（国鉄や私鉄）によって区別される点が特徴的です。

近年では、「博物館」や「図書館」、「老人ホーム」、「風力発電用風車」などの地図記号が追加され、一方で「銀行」や「電報・電話局」、「古戦場」などの記号は使われなくなりました。また、2013年には「工場」「桑畑」の記号が廃止され、2019年には「自然災害伝承碑」の地図記号が制定されました。現在、日本の地図記号は2万5千分の1縮尺用で161種類が設定されています。

また、訪日外国人向けに、分かりやすい地図記号も作成されています。

スイス

スイスでは、2014年から新しい図式による地形図が発行され、道路、鉄道、境界記号などが多色化され、風車や廃棄物処分場などの記号が追加されました。森林の表現が特徴的で、疎林や街路樹も緑色の小さな丸で密度を表現しています。建物の記号は外観によるもの（教会、煙突など）があり、用途による記号は少なく、目立つ建物は文字で表示されることが多いです。

オーストリア

オーストリアの地形図では、教会や十字架、スキーのジャンプ台など目標になりやすい建築物の記号が多く、大型の建造物は略号で用途を表示します。河川は幅で分類した記号があり、浴場や温泉は文字で表記します。植生は森林、低木、果樹園などの記号がありますが、それ以外の畑は空白です。

ドイツ

ドイツの地形図では、教会などの建物に付随する高塔や煙突を丸で記載するのが特徴で、可能な限り全て記載します。また、電波塔や記念碑、風車などの記号も豊富です。新図式では、住宅地と商工業地域を色分けし、病院や救護所の記号が追加されました。

イギリス

イギリスの地形図では、教会や風車、灯台類を外観で区別し、その他の建物の用途は略号で表示します。長屋の庭にも境界線を入れるのが特徴です。植生は針葉樹、非針葉樹、低木、雑木林などの区別があり、近年では、レジャー目的の利用が増えているため、観光情報に関する記号が豊富に用意されています。

フランス

フランスの地形図では、城塞関連や石碑類の記号が複数あります。運動場やテニスコートの記号もあり、市役所の記号は目立たない形で示されます。その他の建物の用途は文字や略号で表示されます。植生は広葉樹、針葉樹、果樹園、ブドウ、田などの区別があり、レクリエーション関連の記号も掲載されることがあります。

ベルギー

ベルギーの地形図では、建物用途を色分けで表示し、公共施設には記号があります。植生は色と模様で表現されます。5万分の1地形図では、建物の外観による記号があり、用途は略号で表示されます。

オランダ

オランダの地形図では、旗を掲げた様子を記号化したもの（市役所、郵便局など）が多く、風車、水車、水門、壁の記号が複数あります。植生は記号と色の両方を用いて区別されます。

イタリア

イタリアの地形図では、運河、導水管、井戸などの水系やパイプラインの記号が豊富で、塀や柵を建材の種類で細かく分けています。

スウェーデン

スウェーデンの地形図では、土地利用や植生が色や模様で示され、「井」型の記号で材木置き場を表します。観光用の海水浴場の記号や、ルーン文字風の遺跡記号があります。

カナダ

カナダの地形図では、建物用途の記号は文字の図案化が多く、旗を図案化した記号も多いです。スポーツやレクリエーションのための屋外施設の表示が多いです。法的または土地利用の境界線は、レベルや表示内容で9種類に分類されます。等高線は、測定精度に疑問がある場合に破線で表示されます。

ニュージーランド

ニュージーランドの地形図では、原生林、外来種針葉樹林、マングローブなどを区別し、低木林、疎林、孤立樹木の記号があります。建物の用途は文字で表示し、学校を略号で示すことがあります。渡り場や地上のパイプラインの記号があります。鉱泉の記号は冷水か熱水かで色を変えます。

シンガポール

シンガポールの地形図では、宗教施設に対して5種類の記号がありますが、それ以外は2文字程度の略号を交えて文字で表します。植生は雑草地、芝生、ジャングル、ゴム、ココナツなどの記号があります。

まとめ

地図記号は、地図を読み解く上で不可欠なツールであり、各国の文化や歴史、地形の特徴を反映した多様な記号が存在します。地図を利用する際には、凡例を確認し、記号の意味を理解することが重要です。

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