坂根田鶴子

坂根田鶴子：日本初の女性映画監督、その生涯

坂根田鶴子（1904年12月7日 - 1975年9月2日）は、京都府京都市上京区出身の映画監督、映画製作者であり、日本映画史における先駆者の一人です。溝口健二監督の下で助監督としてキャリアをスタートさせ、1936年に『初姿』を監督し、日本初の女性映画監督としてその名を刻みました。

生い立ちと映画界への道

1904年、京都の裕福な縮緬織物業を営む家庭に生まれた坂根田鶴子は、幼少期から恵まれた環境で育ちました。名門の京都府立京都第一高等女学校（現京都府立鴨沂高等学校）から同志社女子専門学校英文科（現在の同志社女子大学）へ進学するなど、勉学にも励みました。

しかし、結婚生活の破綻を経験し、自立を決意した坂根は、映画界への道を志します。1929年、日活京都太秦撮影所に監督助手として入社し、溝口健二監督の薫陶を受けました。溝口監督の作品に助監督として携わりながら、映画製作の現場で着実に経験を積んでいきました。

日本初の女性映画監督として

1936年、坂根は小杉天外の小説『はつ姿』を原作とした映画で監督デビューを果たします。溝口健二も監督補導として参加したこの作品で、坂根田鶴子は日本初の女性映画監督となりました。しかし、『初姿』は興行的には成功せず、批評家からの評価も芳しいものではありませんでした。それでも坂根は映画制作への情熱を失わず、助監督として溝口作品を支え続けました。

戦時下の満州へ

その後、坂根は理研科学映画株式会社でドキュメンタリー映画を制作したり、満州映画協会（満映）に移籍し、国策映画の製作に携わりました。敗戦後、帰国までの間、東北電影公司で映画製作に関わるなど、激動の時代を生き抜きました。

帰国後と晩年

帰国後、坂根は再び松竹下加茂撮影所に入社しますが、助監督ではなく記録係としての採用となりました。溝口健二は既に田中絹代とのコンビで数々の名作を生み出しており、坂根が再び監督として活躍する機会は訪れませんでした。1962年に松竹京都撮影所を定年退職した後も、アルバイトとして映画に関わり続け、1975年に胃がんで71年の生涯を閉じました。

映画史における意義

坂根田鶴子は、日本映画史において、女性が映画監督として活動することが困難だった時代に、その道を切り開いたパイオニアとして記憶されるべき存在です。監督作品は一本のみでしたが、溝口健二監督作品を支えた助監督としての貢献、戦時下の満州での映画製作など、その足跡は多岐にわたります。彼女の存在は、後に続く女性映画監督たちに勇気と希望を与えました。

参考文献

池川玲子『「帝国」の映画監督　坂根田鶴子』吉川弘文館、2011年
大西悦子『溝口健二を愛した女 女流映画監督第一号/坂根田鶴子の生涯』三一書房、1993年

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