堀内誠一

堀内誠一：デザインと絵本の魔術師

堀内誠一（1932年～1987年）は、20世紀後半の日本を代表するグラフィックデザイナー、エディトリアルデザイナー、そして絵本作家でした。その多才ぶりは、デザイン界のみならず、絵本の世界にも大きな足跡を残しています。東京府向島（現在の墨田区）に生まれた彼は、図案家であった父・堀内治雄の影響を強く受け、幼少期から創作活動に没頭しました。小学1年生の時には既に、自作の雑誌を制作していたという逸話は、彼の並外れた才能を物語っています。

学業は日本大学第一商業学校（現在の日本大学第一高等学校）中退という経歴ですが、彼のキャリアは学歴にとらわれませんでした。14歳という若さで伊勢丹百貨店に入社し、商業デザインの世界へ足を踏み入れます。その後、1955年にはアド・センター株式会社を設立するなど、起業家としての才能も発揮しました。

彼の才能が開花したのは、デザインの世界だけではありません。1958年には、著名な洋画家・内田巌の娘である内田路子と結婚。彼女は後に堀内誠一の妻、そして多くの児童書の翻訳家として活躍します。夫妻は、お互いの才能を活かし、数々の絵本を共同で制作しました。

堀内誠一は、雑誌デザインにおいても卓越した才能を示しました。平凡出版（現マガジンハウス）の『an・an』『POPEYE』『BRUTUS』『Olive』など、現在もなお愛され、そのロゴが使用されている数々の雑誌のデザインを手がけました。これらの雑誌のデザインは、日本の雑誌デザイン史に大きな影響を与えたことは間違いありません。

また、1968年から1969年にかけては、澁澤龍彦氏と共に季刊誌『血と薔薇』を編集。その独特な世界観は、多くの読者を魅了しました。1974年には、フランス・パリ郊外のアントニーに移住し、パリ在住日本人向けミニコミ誌『イリフネ・デフネ』（現『OVNI』）の創刊にも参画しました。パリでの生活は、彼の創作活動に新たなインスピレーションを与えたと考えられます。

絵本作家としては、1958年に発表した処女作『くろうまブランキー』をはじめ、多くの作品を残しました。特に福音館書店の『こどものとも』シリーズに数多くの作品を発表し、世代を超えて愛される名作を世に送り出しました。代表作として挙げられるのは、『ぐるんぱのようちえん』、『たろうのおでかけ』、『おやゆびちーちゃん』などです。これらの作品は、シンプルながらも奥深いストーリーと、独特の色彩感覚で、多くの子供たちの心を捉えました。また、谷川俊太郎氏との共作絵本シリーズ「ことばのえほん」も高く評価されています。彼の絵本は、単なる子供向けの作品ではなく、大人も楽しめる芸術作品として高く評価されています。2000年には日本テレビのテレビドラマ『天使が消えた街』で、主人公の記憶にかかわる重要な絵本として登場し、作品への関心が再び高まりました。

彼の活動は絵本や雑誌のデザインに留まりません。自身で執筆した『父の時代・私の時代』は、自身の生い立ちやデザインへの考え方、そして時代の変遷を描き、デザイナーという職業への理解を深める上で貴重な資料となっています。

1987年、下咽頭癌により54歳で逝去。しかし、彼の作品は、現在もなお人々の心を癒し、多くのデザイナーやクリエイターに影響を与え続けています。2009年には世田谷文学館、伊丹市立美術館などで「堀内誠一　旅と絵本とデザインと」展が開催され、その功績が改めて広く認識されました。

堀内誠一は、デザインと絵本の両分野で卓越した才能を発揮した稀有な存在でした。彼の作品は、時代を超えて多くの人々に愛され続け、これからも日本の文化遺産として大切に受け継がれていくことでしょう。彼の芸術は、これからも私たちの心に温かい光を灯し続けてくれるでしょう。

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