大入道

大入道（おおにゅうどう）

大入道は、日本各地に伝わる妖怪の一種です。その名称は「大きな僧」を意味しますが、伝承によって姿形は様々です。僧侶の姿をしているものもいれば、単なる巨人の姿で現れるもの、あるいは実体の定かではない影のような姿で現れるものもいます。坊主姿のものは特に「大坊主（おおぼうず）」とも呼ばれます。

その大きさもまた一定ではありません。人間より少し大きい2メートルほどのものから、山のように巨大なものまで、様々な大きさの大入道が語られています。多くの場合、人を脅かしたり、見た者を病気にしたりするといった伝承が残されていますが、中には人を助ける大入道も存在します。キツネやタヌキが化けたもの、あるいは石塔が変化したとする説もありますが、多くはその正体が不明とされています。

各地の伝承

人に害を成す大入道

北海道の事例: 嘉永年間、支笏湖畔の不風死岳近くのアイヌ集落に大入道が出現し、その大きな目玉で睨まれた人間は卒倒したと伝えられています。
東京の事例: 第二次世界大戦中の昭和12年、赤羽駅近くの八幡神社踏切で、兵士の姿をした大入道が現れ、赤紙を届けに来た人を襲い、その人物は数日後に変死したとされています。この大入道は、自殺した新兵や上官に撲殺された兵士の亡霊であると言われています。

人を助ける大入道

阿波国（徳島県）の事例: 高川原村では、小川の水車に米などを置いておくと、身長約8.5メートルの大入道が現れ、米を搗いておいてくれたと言われています。ただし、その様子を見ようとすると脅かされると伝えられています。

動物が化けた大入道

岩手県の事例: 紫波郡に伝わる話では、高伝寺の本堂に毎夜怪火が燃え上がり、その影から恐ろしい大入道が現れていました。村人が調べたところ、イタチが怪火と大入道の正体であることが判明し、イタチを退治したところ、怪異はなくなったとされています。
宮城県の事例: 仙台の荒巻伊勢堂山には、唸り声を上げる大岩があり、それが雲をつくような大入道に化けるという話がありました。伊達政宗が自ら退治に出向き、大入道の足元を射ると、正体である巨大なカワウソが現れたと伝えられています。このことから、その坂は「唸坂（うなりざか）」と呼ばれるようになったとされています。

その他の大入道

富山県の事例: 黒部峡谷に16体もの大入道が現れ、鐘釣温泉の湯治客を驚かせたという記録があります。身長は約15〜18メートルで、七色の後光が差していたとされています。これはブロッケン現象による光輪が、湯気に映った湯治客の影として現れたものと考えられています。
愛知県豊橋市の事例: 江戸時代中期、古着商人が名古屋へ向かう途中、身長約4メートルの大入道に遭遇したとされています。この大入道は、比較的小さい部類に属します。
滋賀県の事例: 『月堂見聞集』には、伊吹山の麓で大雨の夜に大入道が現れ、松明のような灯火を灯して山頂へ向かったという記述があります。この大入道は非常に大型であったとされています。
兵庫県西播磨地域の事例: 「西播怪談実記」には、山伏姿の大入道が山を跨ぐほどの巨大さで現れたという話や、3メートルほどの大入道が川で網を引いていたという話、道に3メートルほどの大入道が立ちはだかっていたという話などが記録されています。
兵庫県丹波篠山市の事例: 篠山城下では、雨の夜に傘をさして高校の脇を通ると傘が重くなり、背後から大入道が笑っているという話が伝わっており、「一本松の見越しの入道」として篠山の怪談七不思議の一つに数えられています。
熊本県の事例: 豊野村には、「今にも坂」という坂があり、昔、ここに大入道が現れて通行人を驚かせたことから、その名がついたとされています。

祭礼の大入道

四日市祭: 三重県四日市市で行われる四日市祭では、大入道山車が有名です。これは、町内の桶之町が製作したもので、首が伸縮する仕掛けが施されています。この大入道に対抗して狸がさらに大きく化けたという民話や、反物屋の奉公人がろくろ首であり、彼を偲んで製作されたという話も伝えられています。また、四日市市のゆるキャラ「こにゅうどうくん」はこの大入道の息子という設定になっています。

このように、大入道は地域によって様々な姿や性質を持ち、日本の民間伝承において重要な役割を果たしている妖怪であると言えるでしょう。

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