大塚直哉

大塚直哉（おおつか なおや）氏は、日本の音楽界において、チェンバロ奏者として、また教育者、研究者、そして古楽分野の要職を歴任する人物として、多大な貢献を続けている。

その学歴は、和光小学校、中学校、そして東京都立町田高等学校を経て、音楽の道を深く探求することになる。1994年に東京藝術大学音楽学部楽理科を卒業後、同大学院に進み、1997年には器楽専攻修士課程を修了した。さらに研究を深め、2001年には同大学院チェンバロ専攻博士後期課程を修了し、博士（音楽）の学位（甲種）を取得している。国内での学業を終えた後、さらなる研鑽のため海外へ渡り、アムステルダム音楽院でチェンバロ科およびオルガン科を修了した。

演奏家としては、アンサンブルにおける通奏低音奏者、およびソリストの両面で活動を展開している。これまでに『アンサンブル コルディエ』や『バッハ・コレギウム・ジャパン』といった著名なアンサンブルに参加し、古楽の響きを支える通奏低音の役割を担ってきた。また、チェンバロ、オルガン、クラヴィコードといった歴史的な鍵盤楽器のソリストとしても、その優れた演奏技量を披露している。これらの楽器の魅力を広く伝えるため、初心者向けのワークショップを各地で開催し、古楽の普及活動にも積極的に取り組んでいる。録音作品も多数発表しており、特にチェンバロのソロCD「トッカーレ［触れる］」は、彼の演奏家としての側面に触れる上で重要な一枚である。

教育者としてのキャリアは、神戸松蔭女子学院大学や東京藝術大学での非常勤講師から始まった。その後、東京藝術大学音楽学部において、2010年より准教授として教鞭を執り、2018年からは教授（古楽研究室担当）に昇任した。現在では、同大学の理事および教育担当の副学長という要職も兼任し、教育行政の分野でもその手腕を発揮している。このほか、国立音楽大学でも非常勤講師を務め、後進の指導に当たっている。

演奏や教育活動に加え、古楽界の発展に寄与するための多様な活動も行っている。2023年からは日本チェンバロ協会の第6期会長を務め、国内におけるチェンバロ音楽の振興に中心的な役割を果たしている。また、宮崎県立芸術劇場、彩の国さいたま芸術劇場、そして歴史ある旧東京音楽学校奏楽堂といった主要な文化施設のオルガン事業においてアドバイザーを務め、楽器の維持管理や企画運営に関しても専門的な知見を提供している。さらに、NHK-FMの長寿番組「古楽の楽しみ」では、2016年4月より案内人として出演しており、リスナーに古楽の魅力を分かりやすく解説し、その普及に大きく貢献している。

研究者としての成果も多く、博士論文では『J.S.バッハの手鍵盤のためのトッカータ研究』として、バッハの作品の成立やクラヴィーアの概念について深く考察した。また、教育的な観点から古楽の演奏法に関する編書や監修書も出版しており、『Plus Baroqueバロック・ピアニストへの道』や、歴史的鍵盤楽器に親しむための入門書である『クラヴィス』、さらには『4期のピアノ名曲集』シリーズの監修なども手掛けている。

このように、大塚直哉氏はチェンバロ奏者としての高い演奏能力に加え、教育、研究、行政、メディア出演など、多岐にわたる分野で古楽に携わり、その専門知識と経験を活かして日本の古楽界を牽引する存在である。

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