安倍頼時

安倍頼時：前九年の役を彩った武将の生涯

安倍頼時は、平安時代中期の武将として知られています。陸奥国奥六郡を支配した豪族であり、その孫には後に奥州藤原氏を興す藤原清衡がいます。当初は頼良と名乗り、安太夫を称しました。

頼時は、陸奥大掾（あるいは陸奥権守とも）を務めた安倍忠良の子として生まれました。彼の代までに、安倍氏は奥六郡で半独立的な勢力を築き上げていました。11世紀半ばには、朝廷への貢租を怠るようになり、朝廷との関係が悪化していきました。

永承6年（1051年）、朝廷は陸奥守・藤原登任に数千の兵を与え、安倍氏の討伐を命じます。これに対し、頼良は俘囚らを率いて衣川を越え、国衙領へ侵攻。鬼切部の戦いで国府軍を破り、朝廷に大きな衝撃を与えました。これは前九年の役の端緒となる重要な出来事でした。

朝廷は、源頼義を新たな陸奥守に任命して派遣します。しかし、頼義の赴任翌年の永承7年（1052年）春、上東門院藤原彰子の病気平癒祈願を機に、安倍氏への大赦が出され、頼良への罪も許されました。頼義と同名であることを避けるため、頼良は「頼時」と改名しました。

天喜4年（1056年）、頼義の陸奥守任期が満了に近づくと、多賀城へ帰還途中の頼義軍の営所が何者かによって夜襲を受けました。頼義は、この事件の容疑者として頼時の嫡子・貞任の身柄を要求します（阿久利川事件）。頼時はこれを拒絶し、挙兵しました。これにより、頼時への討伐宣旨が出されます。

天喜5年（1057年）7月、頼時は反乱を起こした一族とされる豪族・安倍富忠を説得するため北上します。しかし、仁土呂志辺で富忠勢に奇襲され、流れ矢を受けて重傷を負いました。鳥海柵まで退却しますが、本拠地の衣川を目前にした鳥海柵で死去しました。その後、息子の貞任が家督を継ぎました。

『今昔物語集』などの文献を根拠に、頼時が反乱の首謀者ではなく、蝦夷の反乱に巻き込まれたという見解もあります。また、束稲山に桜を植えたという逸話も残されています。

安倍頼時の生涯は、前九年の役という大きな歴史的事件と深く関わっています。朝廷との対立、そして一族郎党を率いて戦った彼の姿は、平安時代末期の東北地方における勢力争いの激しさを象徴するものです。彼の死後も、安倍氏は貞任らによって抵抗を続けましたが、最終的には源頼義・義家父子の軍勢の前に敗れ去ることとなります。頼時は、その後の奥州藤原氏の隆盛の礎を築いた人物として、歴史に名を残しました。彼の生き様は、現代においても様々な解釈がなされ、議論の的となっています。

関連事項

NHK大河ドラマ『炎立つ』（1993～94年）: 里見浩太朗が安倍頼時を演じました。
鳥谷ヶ崎城: 安倍氏の拠点の一つと推測されています。

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