鳥海柵

鳥海柵跡：奥州安倍氏の拠点と前九年の役の舞台

岩手県金ケ崎町に位置する鳥海柵跡は、平安時代、奥州を治めた豪族・安倍氏の重要な拠点でした。2013年に国の史跡に指定されており、前九年の役における激動の時代を物語る貴重な遺跡として注目されています。

地理的位置と規模

鳥海柵跡は、北上川と支流の胆沢川の合流点から西北西約2.5キロメートル、胆沢川北岸の高台に築かれていました。対岸には胆沢城跡があり、両遺跡の位置関係から、当時の勢力図を推測することができます。金ケ崎段丘の南端に位置し、周囲の低地との比高は約10メートル。南北約500メートル、東西約300メートルの広大な範囲に及ぶと推定されています。別名、弥三郎館とも呼ばれています。

前九年の役における役割

永承6年（1051年）に勃発した前九年の役において、鳥海柵は安倍氏にとって重要な役割を果たしました。安倍頼良（後の頼時）は、この地を拠点に源頼義と戦い、流れ矢に当たって亡くなったと伝えられています。康平5年（1062年）、源氏・清原連合軍の攻撃を受け落城した後、安倍氏は厨川柵へと逃れ、抵抗を続けました。

発掘調査で明らかになったこと

1958年から2012年にかけて、19回にわたる発掘調査が行われ、多くの遺構や遺物が発見されました。調査の結果、50棟以上の竪穴建物跡や、櫓状建物跡、堀、塀跡などが確認されました。特に、台地を分割する谷を結ぶ長さ145メートルにも及ぶ巨大な堀の存在は、鳥海柵跡の規模と防御体制の高さを示しています。また、11世紀中頃の土師器が大量に出土しており、当時の生活様式を知る上で貴重な資料となっています。

特に注目すべきは、北部の縦街道南区域で発見された、東西16.5メートル、南北12.58メートルの四面廂付き掘立柱建物です。整然と並ぶ柱列や、土壁で床張りの建物だった痕跡、出土した円形土製品や鉄製品、水晶玉などから、政治・儀式に関わる中心的な建物であったと推測されています。

歴史的背景と意義

江戸時代の地誌『安永風土記』や、大正時代に作成された「鳥海柵見取り図」にも鳥海柵跡の伝承が記されており、平安時代の歴史書『陸奥話記』にも安倍氏が築いた12の柵の一つとして記載されています。『吾妻鏡』には「鳥海三郎宗任」の記述があり、安倍頼良の三男・宗任が柵主であったと考えられています。

鳥海柵跡は、安倍氏の勃興期から全盛期の様子を伝える貴重な遺跡です。律令国家からの自立、そして奥州藤原氏による平泉文化の隆盛へと繋がる歴史を理解する上で重要な役割を果たしています。また、東北地方における居館のあり方や都市計画の展開を知る上でも貴重な資料となっています。これらの歴史的・考古学的価値が認められ、2013年に国の史跡に指定されました。

アクセス

東北本線金ケ崎駅から車で約10分
東北縦貫自動車道水沢ICから国道4号線を北へ車で約5分

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