寿桂尼

寿桂尼の生涯と影響

寿桂尼（じゅけいに、? - 1568年）は、戦国時代の駿河国において政治的な影響力を持った女性です。彼女は今川氏親の正室として知られ、その人生を通じて今川家とその支配下にある地域の政務に深く関与しました。寿桂尼の出生は、藤原北家・勧修寺流の中御門家に由来し、父は権大納言の中御門宣胤です。彼女には弟の中御門宣秀と、妹には山科言綱の正室であった黒木の方がいます。寿桂尼には今川氏輝、今川義元、瑞渓院（北条氏康室）など、多くの子がいましたが、名は不詳です。

彼女が氏親に嫁いだ年については永正5年（1508年）と考えられていますが、米原正義の研究では永正2年（1505年）ともされています。寿桂尼の子どもたちは諸説あり、その中でも特に今川氏輝と義元の存在が重要視されています。特に義元については、生母に関する異論も多いですが、寿桂尼が彼の母であるという説が主流です。

寿桂尼は、夫の氏親が晩年病床にあった際、政務を補佐する重要な役割を果たしました。氏親と共に彼女が作成した『今川仮名目録』は、今川氏の分国法として後の時代に言及されることになります。しかし、この法典が彼女によって作成されたかどうかは議論が分かれており、その背景にある複雑な事情が窺えます。氏親が1568年に病死した際、彼女はまだ多くの責任を抱えていました。

氏輝が家督を継いだ際、彼はまだ14歳という若さでした。そのため、当時の政治の実権は寿桂尼が握っており、彼女は自らの印判を用いて公的な文書を発行しました。この印判は、彼女が氏親と結婚する際に父から与えられたものであり、これにより彼女は「尼御台」として知られることになります。彼女が発行した文書は25通あり、そのうちの13通が氏輝の治世下で作成されたものです。

しかし、政権における彼女の影響力は家族内にも及びました。天文5年（1536年）に、氏輝と彦五郎が次々と亡くなると、寿桂尼は義元を還俗させ、家督争いが起こります。この家督争いにおいて、寿桂尼は義元側ではなく側室の子である玄広恵探へと与していたとの説もあり、この時代の女性の政治的立ち位置や影響力の難しさを物語っています。

義元が家督を継いだ後も、寿桂尼は今川氏の政治に関与し続け、私的な縁談の示唆を行うなど精力的に活動しました。北条氏規が今川に人質として送られた際には、寿桂尼が彼を養育し、家族としての責任も果たしました。

しかし、今川氏の滅亡は避けられず、彼女が1568年3月14日に今川館で死去した際、今川氏はすでに衰退の一途を辿っていました。彼女の戒名は「龍雲寺殿峰林寿桂大禅定尼」であり、自らが建立した龍雲寺に埋葬されました。寿桂尼の墓の場所は寺の背後に位置していますが、どれが彼女の墓であるかは明確ではありません。彼女の死後、今川氏と武田氏の外交関係は断絶し、今川領へ武田氏の侵攻が始まるという歴史の一幕を迎えることになります。

また、寿桂尼を題材にした作品も多く存在します。永井路子の小説『姫の戦国』や、NHKの大河ドラマ『武田信玄』など、彼女の物語は現在でも多くの人々に語り継がれています。寿桂尼の存在は戦国時代の女性の力を象徴しており、彼女の生き様やその影響力は今日の日本の歴史においても、重要な位置を占めています。

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