川越唐桟

川越唐桟（かわごえとうざん）

川越唐桟は、埼玉県川越市で江戸時代後期に生まれた木綿織物です。「川唐（かわとう）」とも呼ばれ、そのシックで粋な縞模様は、他の唐桟織の中でも特に人気を博しました。現在では、小布帖と着物が川越市指定有形民俗文化財に指定されています。

特徴

唐桟織は、細い木綿の双糸を平織りにすることで、木綿でありながら絹のような滑らかな風合いを持つのが特徴です。糸の密度も非常に高く、40センチ幅あたり2000本もの糸が使用されることもあります。川越唐桟Rebornプロジェクトでは、そのブランド化のために独自の基準を設けています。

歴史

川越唐桟の誕生

川越を含む入間地方は、古くから高麗からの帰化人によって機業が盛んでした。江戸時代には幕府が庶民の着衣を木綿と麻に制限したため、川越の織物は発展の機会を得ます。

『新編武蔵風土記稿』には、1705年に川越城主が甲斐国から絹織物の職人を連れてきたことで「川越絹」が始まったと記されています。また、秩父地方の紬や狭山の絹織物も、川越の商人によって広く流通しました。

唐桟織は安土桃山時代に日本に伝わりました。「唐」は外国を意味し、「桟」はインドのサントメ（セント・トーマス）から来た木綿織物を指します。川越藩は天保年間に財政難を打開するため、唐桟織の需要に着目し、木綿製糸を奨励して江戸での販売を試みました。

中島久平と川越唐桟

18世紀のイギリス産業革命により、安価な英国製綿糸が日本に輸入されるようになります。1859年の横浜開港後、川越の機業家であった中島久平は、海外産の洋糸と唐桟織の見本を入手し、各地の機業者に配布しました。その結果、高橋新五郎、山田紋右衛門、中沢佐平次らによって、絹のような光沢と柔らかさを持つ、海外産よりも高品質な木綿織物が誕生しました。これが「川越双子織」または「川越唐桟」と名付けられ、「川唐」の愛称で親しまれるようになります。

中島は洋糸を大量に買い付け、手織りで生産を開始。川越唐桟はその品質と安さから人気を博し、周辺地域の農村で「出機（でばた）」と呼ばれる手織りが行われました。生産は川越地域だけでなく、東松山市、蓮田市、ふじみ野市、日高市など広範囲に及び、東北地方からの出稼ぎ女工も多くいました。

中島は宣伝にも力を入れ、市川団十郎に川越唐桟を贈りました。団十郎はこれを愛用し、舞台で川越唐桟の帯を身に着けたり、台詞に取り入れたりして、その流行を後押ししました。

喜多川守貞の「守定漫稿」にも川越産の唐桟が舶来品に劣らない品質で、江戸の人々に好まれていたことが記されています。中島は1874年に学校設立に寄付するなど地域貢献も行いましたが、鉄道建設には地元が消極的だったため、川越の鉄道建設は遅れることになります。中島は川越唐桟全盛期の1888年に亡くなりました。

1893年の川越大火までは川越唐桟は盛んでしたが、大正時代に入ると自動織機の台頭により衰退。1919年には川越織物市場が解散しました。

消滅と復活

川越唐桟は昭和初期に一度は消滅したとされますが、1970年代に田中利明を中心とした市民有志によって復活しました。田中は地域おこしに尽力し、川越に関する書籍を出版。骨董趣味を通じて川越唐桟を知り、その復活に尽力しました。

1978年に高機が寄贈されたことをきっかけに「川越唐桟復活のための有志懇談会」が開催され、高校教師の井上浩が川越唐桟の研究を行い、書籍『川越唐桟』を出版。1986年には川越唐桟愛好会が設立され、田中が初代代表に就任しました。

田中は川越唐桟を単なる和服の生地としてではなく、新たな用途を考案することで、その復活を軌道に乗せようとしました。

1988年には川越唐桟愛好会は100名近い会員を擁し、1989年には「川越唐桟手織りの会」が独立。川越市立博物館での手織り体験などを通して、川越唐桟の文化を継承しています。

商品としての復活

商品としての川越唐桟を復活させるため、機屋による生産が模索され、井上が入間市の西村芳明に再現を依頼。西村織物工場が手掛けることになりました。令和に入り、埼玉県飯能市のマルナカ織物が川越唐桟織を手掛けています。

活用と展開

2014年度と2015年度には、「川越唐桟Rebornプロジェクト」として、川越唐桟を川越いもと並ぶ特産品に育てようという試みが行われました。また、JR東日本のクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」の室内着に川越唐桟が採用されました。スターバックス川越鐘つき通り店の店内シートにも川越唐桟が使用されています。

2022年の川越市市制100周年には、サマンサタバサとのコラボレーション商品が販売され、小学生がデザインした記念柄も制作されました。

現在、川越唐桟を主に取り扱っているのは、川越市仲町の「呉服笠間」と幸町の「呉服かんだ」です。着物研究家のシーラ・クリフは、川越唐桟を「とてもスタイリッシュなカジュアルウェア」と評価しています。

もう一度検索