当世書生気質

『当世書生気質』の概要

『当世書生気質』は、坪内逍遥（本名：春の屋おぼろ）が1885年から1886年にかけて発表した小説です。この作品は、明治時代の書生社会の風俗や気質をテーマにしており、当時の下宿生活や書生たちの遊びを通じて、様々な人間関係が描かれています。初版は和装活版による雑誌形式で発行され、全17号にわたって完結しました。小説の内容は、戯作的な要素を含みつつも、社会的なリアリズムに根ざした文学として位置づけられています。

背景と執筆時の状況

執筆は1884年頃から始まり、最初は『遊学八少年』という題で構想されていましたが、改められた結果として1885年4月9日に執筆が開始されました。『小説神髄』と呼ばれる文芸論に則り、勧善懲悪の概念を否定し、写実主義の文学を追求した作品であることが、逍遥自身による「はしがき」に示されています。この意図は、明治初年の社会における書生たちの生き様を映し出すことにありました。

本作の非常に特筆すべき点は、初版に挿絵が多数掲載されており、梅蝶楼や葛飾正久といった有名な浮世絵師によるものです。完結後の1886年には、再刊されており、出版物は次第に広がりを見せました。

物語のあらすじ

物語は東京の飛鳥山が舞台となります。片腕を失った銀行家三芳庄右衛門が花見のために連れ出した芸妓、田の次ことお芳が、書生の小町田粲爾と偶然再会します。お芳は上野戦争の際に孤児となり、後に粲爾の父に育てられてきた幼馴染です。この再会をきっかけに、二人の間に恋愛感情が芽生えますが、周囲の嫉妬や誤解によって彼らの関係は複雑化します。

物語が進行する中で、田の次に横恋慕していた吉住が、彼女と粲爾の関係を汚すために陰謀を企てる様子や、粲爾の学友である守山友芳が妹を探す物語が展開されます。最終的には、田の次が守山友芳の生き別れの妹であることが明らかになり、物語は大団円を迎えます。

人物描写

登場人物は多岐にわたります。主人公の小町田粲爾は真面目で神経質な性格で、周囲からは何かと誤解されていきます。彼の幼馴染である田の次はしっかり者で、彼女の成長と苦悩が描かれます。また、守山友芳の家族との関わりや、彼らが経験する社会的な試練も重要な要素です。

この作品は、坪内逍遥が自身の経験と知識を基に描いた文学であり、同時に明治時代の書生たちのリアルな生活を映し出す重要なテキストとして評価されています。逍遥は後に、自作によるキャラクターたちが読者に与える影響を意識しており、彼自身の文学的スタンスを確立する一助となった作品として位置づけられています。

まとめ

『当世書生気質』は日本の近代文学における重要な作品であり、写実主義の基礎を築いたと同時に、当時の社会・文化を探求する契機となりました。読み手に様々な感情と社会的な情勢をもたらしつつ、文体やキャラクター造りにおいても大きな影響を与えた作品であると言えるでしょう。

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