柴那典

日本の音楽ジャーナリストとして知られる柴 那典（しば とものり）は、1976年7月19日に神奈川県で生まれました。多角的な視点から日本の音楽シーンを見つめ、その構造や変遷を論じる論客として活動しています。

栄光学園中学校・高等学校での学生生活を経て、京都大学総合人間学部に進学。大学在学中は、作曲サークル「吉田音楽製作所」に積極的に参加し、音楽創作活動に没頭しました。このサークル活動は、後のキャリアにおいて重要な基盤となります。特に、後に著名な作曲家となる神前暁氏が1期上の先輩として在籍しており、柴氏はこの「吉田音楽製作所」について、現代の「同人音楽グループの草分け的な存在だった」と回想しています。

1999年に大学を卒業後、株式会社ロッキング・オンに入社しました。同社では、影響力のある音楽雑誌である『ROCKIN'ON JAPAN』、『BUZZ』、『rockin'on』といった媒体の編集業務に携わりました。編集者として、記事の企画、執筆、校正などに深く関わり、音楽メディアの現場で貴重な経験を積みました。

約5年間ロッキング・オンで勤務した後、2004年に同社を退社し、フリーランスの音楽ジャーナリストとして独立しました。独立後は、これまでの編集経験と音楽に対する深い知識を活かし、執筆活動を中心にキャリアを築いていきます。

独立してからの活動は多岐にわたりますが、特に注目されるのは、日本の音楽文化に関する鋭い分析を提示した複数の著書です。2014年4月には初の単著となる『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』（太田出版）を刊行。この本は、バーチャルシンガーである初音ミクが音楽シーンやクリエイター文化に与えた影響を深く掘り下げ、デジタル時代における音楽のあり方を問い直す内容として大きな反響を呼びました。

続いて、2016年11月には『ヒットの崩壊』（講談社現代新書）を発表。この著作では、CDセールス中心だった従来のヒットチャートの構造が崩壊し、ストリーミングやSNSといった新しいメディアの登場によって、音楽が消費され、共有される方法がどのように変化したかを分析。現代の音楽ビジネスやプロモーション戦略の課題と展望について考察しました。

さらに、2021年には『平成のヒット曲』（新潮新書）を刊行。この作品では、平成という一つの時代区分に焦点を当て、その間に生まれたヒット曲や音楽トレンドが、社会や文化とどのように結びついていたのかを論じています。特定の時代を彩った楽曲を通して、当時の世相や人々の価値観を浮き彫りにする試みです。

単著以外では、牧村憲一氏、藤井丈司氏と共に執筆した共著『渋谷音楽図鑑』（2017年、太田出版）があります。この本は、日本の音楽シーンにおいて重要な位置を占める「渋谷」という場所に焦点を当て、その地域が音楽文化に果たした役割や、そこに根ざしたアーティストたちの活動を多角的に紹介するものです。

執筆活動の傍ら、柴氏はメディアへの露出も積極的に行っています。テレビやラジオ番組に出演し、専門家として音楽に関するコメントを提供したり、ゲストとして自身の見解を述べたりすることで、より多くの人々に音楽の魅力を伝え、議論を提起しています。また、編集者としての依頼にも応じ、様々な企画に携わっています。

柴 那典氏は、学生時代の音楽活動から始まり、ロッキング・オンでの編集者経験、そして独立後のジャーナリストとしての確固たるキャリアを通じて、常に日本の音楽シーンの最前線を見つめてきました。自身の著作やメディアでの発言を通して、現代音楽の動向やその背景にある社会構造を分かりやすく解説し、多くの読者やリスナーに新たな視点を提供し続けています。その活動は、音楽評論という枠を超え、現代文化全体を理解する上で重要な示唆を与えています。

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