桜舞う乙女のロンド

『桜舞う乙女のロンド』は、アダルトゲームブランドensembleが2013年 11月29日にリリースした美少女アドベンチャーゲームです。主人公が男性でありながら女装してお嬢様学園に通うという、同社の人気シリーズ「乙女シリーズ」の第三作にあたります。前作『花と乙女に祝福を』、『乙女が紡ぐ恋のキャンバス』に続く系譜を汲み、略称は『桜乙女』としてファンに親しまれています。2014年 3月28日には、後日談を描いたミニファンディスク『桜舞う乙女のロンド〜あなたと見る冬桜〜』が発売されました。また、本作はAndroid版やiOS版としても移植されており、モバイルプラットフォームでも広く展開されています。

ゲームシステム

本作のゲームシステムは、一般的なテキストアドベンチャー形式を踏襲しています。プレイヤーは主にマウスクリックで物語の文章を読み進め、途中で出現する選択肢を選ぶことで主人公の行動を決定し、ストーリーが多様に分岐・進行するマルチエンディング形式を採用しています。

攻略対象となるヒロインは、基本ルートで5人が用意されています。各ヒロインの物語を終えた後には、その後の二人の関係を描く「AFTER STORY」がプレイ可能です。さらに、期間限定で配布されたパッチを適用することで、主人公の義妹であるキャラクターが攻略ヒロインに追加される要素もありました。

一部の物語ルートでは、特別な立ち絵を用いた劇中劇が挿入されるなど、演出にも工夫が見られます。ゲームを一度クリアすると、タイトル画面に「EXTRA」メニューが開放され、ゲーム中に一度見たイベントCGや回想シーンを自由に鑑賞できる「CG MODE」「REPLAY MODE」、ゲーム内の楽曲を聴ける「MUSIC MODE」といった機能を楽しむことができます。

ミニファンディスク『あなたと見る冬桜』では、本編発売後に実施されたキャラクター人気投票で上位となったキャラクターたちの後日談シナリオ2本が収録されており、プレイヤーはどちらのシナリオからでも自由に開始することができます。

あらすじ

物語は、幼少期を海外で過ごした兄妹、真原葵と真原祐里が日本に帰国し、それぞれ男子校の菊花学園と女子校の桜花女学園に編入するところから始まります。しかし、病弱な妹・祐里を案じる母親と、桜花女学園の学園長を務める伯母の思惑により、兄の葵は菊花学園に籍を置きながらも、妹と同じ桜花女学園にも通うことを余儀なくされます。さらに成り行きから、桜花女学園の生徒会「桜花会」の副会長に指名されてしまいます。妹・祐里もまた桜花会に入ったことから、彼女のサポートを受けつつ、葵の波乱含みの二重生活が幕を開けるのです。

舞台設定

主要な舞台となる桜花女学園は、名家や財閥の令嬢たちが集まる伝統あるお嬢様学校です。学園長は葵の母方の伯母が務めています。近隣には姉妹校である男子校の菊花学園があり、こちらは葵の義伯父が学園長です。葵と祐里、そして一部のヒロインは学園の寮である桜花寮で生活しています。寮生は週末には自宅に戻ることが多く、学園へは電車で通学しており、寮の近くの商店街も利用しています。

学園の運営に深く関与する「桜花会」は、一般的な生徒会よりも強い権限を持ち、学園生活のあらゆる面に影響力を持っています。その役員は選挙ではなく、前任者からの指名制で受け継がれる伝統があります。役員、特に会長には学業だけでなく運動能力も求められます。

学園最大のイベントは、菊花学園と合同で開催される学園祭です。作中年は桜花女学園が主催する「桜花祭」が開催されます。桜花祭のクライマックスはダンスパーティーで、冬桜の木の下で踊ったカップルは結ばれるというロマンチックな伝説が語り継がれています。タイトルにもある「桜」はこの冬桜を指し、物語の季節が秋から冬にかけてであることを示唆しています。

ヒロインと物語（主要ルート紹介）

個性豊かなヒロインたちとの交流は、葵の二重生活に様々な変化をもたらします。

小峰まなみ: 桜花会新会長。ナンパ被害に遭っていたところを男装姿の葵に助けられたことから交流が始まります。桜花祭のダンスパーティーへの憧れを抱く彼女との関わりや、冬桜の下でのダンス練習、そして正体露見を経て二人の関係は進展します。
門脇桜: 桜花会役員。桜花祭での花壇作りを共に進める中で、葵への想いを募らせます。雨宿りで偶然葵が男性であることを知ってしまいますが、兄妹の事情を理解し、秘密を共有することで、二人は恋人同士となります。
江利原美月: 桜花会会計。流行のライトノベルを通じて葵と打ち解けますが、男子校生姿の葵に片思いし、女装姿の葵に相談するという複雑な状況に。体調を崩した際に正体が露見すると、深く傷つき葵を拒絶しますが、あるきっかけで再び心を通わせ、関係が始まります。
天司涼香: 桜花会前会長。引き継ぎを通じて葵と親しくなり、葵の幼少期のあだ名を知っていたことから、二人が幼馴染であったことが判明します。過去の出来事から男性不信だった涼香は、女装姿の葵に惹かれますが、彼女には婚約者が存在します。二人の関係は、婚約者を巻き込んだ展開へと発展します。
新垣若菜: 一人暮らしの寂しさから夜の街を彷徨っていたところを、叔母からの依頼を受けた葵に保護されます。桜花寮で一夜を過ごした際に女装が露見し、関係を持ってしまいます。親の仕事の都合で転校の可能性に悩む彼女は、葵のアドバイスを受け、自ら状況を変えるために行動を開始します。
真原祐里: 主人公・葵の妹。兄の女装に協力する桜花会役員。追加パッチによって攻略可能となるヒロインです。幼い頃から葵に守られてきた妹としての感情が、兄への恋愛感情へと変化していく過程が描かれます。二人の関係は、秘密の恋として静かに育まれます。

ミニファンディスクに収録された後日談シナリオでは、本編で結ばれたキャラクターたちの関係がさらに深く描かれます。例えば、桜ルートの後日談では、正月デートや予期せぬ家族の目撃、そして家族となることへの憧れが描かれ、祐里ルートの後日談では、両親に秘密のまま進展する関係と、母親に察知されていたことが判明するエピソードが描かれます。

制作と反響

本作は、乙女シリーズにおいて初めてメイン原画に複数のイラストレーターを起用した作品です。きみしま青氏、ねまき氏、蟹屋しく氏らがキャラクターデザイン・原画を担当し、シナリオは歌鳥氏、ハイボリューム氏、水瀬拓未氏らが手掛けています。シナリオ担当には体調不良による交代劇もありました。

販売実績としては、発売月には複数のメディアで上位にランクインしました。また、批評誌『BugBug』のレビューでは、女学園と男子校という二つの学園で二重生活を送るという設定が「斬新」であり、それが単なる設定に終わらずゲームの面白さに繋がっている点が評価されました。多くの女装主人公キャラクターが完璧超人として描かれがちな中で、本作の主人公が思わず男らしい一面を見せてしまう描写が、正体バレへの自然な伏線となっている点も指摘されています。特に、正体露見のイベントが、何の脈絡もなく唐突に発生するのではなく、丁寧な積み重ねによって描かれている点が評価されました。レビューでは、ヒロインの一人である江利原美月ルートが特に言及されています。他のルートでは正体バレが比較的肯定的に受け入れられるのに対し、美月ルートでは一度主人公が拒絶される展開になることが、「過程に山あり谷ありの方が面白い」と評され、物語に深みを与えていると述べられています。

サウンドトラックやタペストリーといった関連商品も展開され、本作のキャラクターは『乙女が奏でる恋のアリア』や『シャイニー・シスターズ〜女装主人公アイドルプロジェクト〜』など、ensembleの他作品にも登場しています。特に主人公の真原葵は複数の作品に、小峰まなみや門脇桜も特定の作品にゲスト出演しています。

『桜舞う乙女のロンド』は、独自の設定と丁寧な描写、個性豊かなキャラクターたちが織りなす物語で、シリーズファンや新規プレイヤーを惹きつけた作品と言えるでしょう。

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