氷紋

『氷紋』は、渡辺淳一が1972年に発表した小説で、旧公明党の機関紙『公明新聞』日曜版に連載されました。この作品は、夫婦間の秘密、過去の恋愛、そして人間の複雑な感情を描いた物語であり、後に2度テレビドラマ化されています。

あらすじ

物語は、1月の札幌で始まります。主人公の有己子は、夫の敬之から、かつて関係のあった久坂利輔が母親の葬儀で札幌に来ていることを知ります。有己子は、結婚前に久坂と一度だけ肉体関係を持っており、そのことが忘れられずにいました。彼女は久坂に再会したいという衝動に駆られ、葬儀を終えて帰る間際の久坂に会いに行きます。

久坂との再会後、二人は再び関係を持ちますが、有己子は常に久坂のことを考え、夫に秘密がバレるのではないかと不安に苛まれます。そんな中、彼女は下腹部の激痛で倒れてしまいます。夫の敬之は、ストレスが原因の結石だと判断し、自ら手術を行うことを決めます。

手術後、有己子は夫の後輩である横堀から、久坂が札幌に戻っていることを知りますが、久坂は見舞いに現れません。退院後、有己子は再び久坂と会いますが、彼は有己子を突き放し、彼女は夫の元へ戻ります。

その後、喫茶店で偶然再会した横堀から、有己子は衝撃的な事実を知らされます。それは、結石手術の際に、敬之が彼女に何も告げずに不妊手術まで行っていたというものでした。さらに、敬之は有己子が妊娠できないことを久坂に知らせるために、手術を見学させていたことも発覚します。この事実を知った有己子は、夫との関係が完全に破綻したことを悟り、娘を連れて実家へ帰る決意をするという結末を迎えます。

主な登場人物

諸岡有己子（もろおか ゆきこ）：旧姓は氏家。S大学医学部教授の娘で、医局員の敬之と結婚します。物語は彼女の視点で語られます。
諸岡敬之（もろおか たかゆき）：S大学医学部の助教授で、有己子の夫です。地位のために有己子と結婚しましたが、彼女と久坂の関係を許せないという複雑な感情を抱いています。
久坂利輔（くさか としすけ）：敬之の同期ですが、過去の医療ミスが原因で大学病院を離れ、地方の町医者として働いています。有己子の過去の恋人です。
諸岡真紀（もろおか まき）：有己子と敬之の一人娘です。
* 横堀：敬之の後輩で、病院での有己子の世話をします。

テレビドラマ

『氷紋』は、過去に2度テレビドラマ化されています。

1974年版

1974年10月から1975年1月にかけて、よみうりテレビ制作・日本テレビ系列で放送されました。岩下志麻が有己子役、津川雅彦が敬之役、北大路欣也が久坂役を演じました。主題歌は「旅路」（風車）。

1986年版

1986年11月から12月にかけて、TBS系列「花王 愛の劇場」枠で放送されました。高橋惠子が有己子役、村井国夫が敬之役、田村亮が久坂役を演じました。主題歌は「ぬくもり」（杉良太郎）です。

この作品は、愛と憎しみ、秘密と裏切りが交錯する、人間の複雑な感情を描いたドラマとして、多くの視聴者に衝撃を与えました。登場人物たちの葛藤や、衝撃的な展開が、物語に深みを与えています。

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