火の馬

映画『火の馬』について

『火の馬』（ひのうま）は、1964年にソ連（現在のウクライナ）で制作された映画です。原題は『忘れられた祖先の影』（ウクライナ語: «Тіні забутих предків»）で、ミハイロ・コチュビンスキーの同名小説を原作としています。監督はセルゲイ・パラジャーノフ、主演はイヴァーン・ムィコライチュークとラルィーサ・カードチュヌィコヴァです。この映画は、フツーリシュチナと呼ばれる地域を舞台に、一途な恋愛の末に起こる悲劇を描いています。

制作の背景

この映画は、原作者であるミハイロ・コチュビンスキーの生誕100年を記念して製作されました。コチュビンスキーは、ロシア帝国によるウクライナ文化弾圧の時代に、ウクライナ文学の復興に尽力した作家です。彼は、ウクライナのフォークロアや下層階級の人々の暮らし、伝統文化に目を向けた作品を多く残しました。代表作である『忘れられた祖先の影』は、1911年に発表されました。この作品が、映画化の原作となっています。

映画の特徴

セルゲイ・パラジャーノフ監督は、この作品を自身の初の長編映画としました。映画は、鮮やかな色彩と情熱的な映像表現、そして独自の構成で、観る者に強い印象を与えます。劇中では、西ウクライナの山岳民族の生活と風習が、ややエキゾチックに描かれています。主人公の悲嘆に暮れる時期にはモノクローム映像が用いられ、それ以外のシーンでは、赤や黄色の極彩色が効果的に使われています。これらの色彩は、運命に対する情熱と苦悩を表しているとされています。

また、映画では、ソ連時代には公には禁止されていた宗教や民族の要素が強調されています。十字架やキリスト教の典礼風景、土着の宗教儀式などが描かれ、独特の雰囲気を醸し出しています。

評価と影響

『火の馬』は、その卓越した映像から、いくつかの国際映画祭で賞を獲得し、パラジャーノフ監督の名を世界に知らしめました。その革新性は、1925年のソ連映画『戦艦ポチョムキン』と比較されるほどでした。しかし、ソ連国内では、この映画が社会主義リアリズムにそぐわないとして強い批判を受けました。パラジャーノフ監督は映像の再編集を拒否し、その後、ソ連の映画界から排除されていくことになります。

主要キャスト

イヴァーン・ムィコライチューク - イヴァーン
ラルィーサ・カードチュヌィコヴァ - マリーチュカ
テチャーナ・ベスターイェヴァ - パラーフナ

あらすじ

物語は、西ウクライナのカルパチア山地を舞台に展開します。山岳民族フツル人の村では、パリイチューク家とフテニューク家が長年にわたり対立していました。イヴァーンは、パリイチューク家の最後の息子として生まれ、敵対するフテニューク家の娘マリーチュカと恋に落ちます。

二人は愛を誓い合い、幸せな日々を送りますが、貧しいイヴァーンは結婚のため出稼ぎに出ざるを得ません。その間に、マリーチュカは崖から転落し、命を落としてしまいます。イヴァーンは、マリーチュカの死に打ちひしがれ、人生に絶望します。その後、村人の勧めでパラーフナという娘と結婚しますが、彼の心には常にマリーチュカの姿がありました。

パラーフナは、イヴァーンの愛情を得られない寂しさから、魔術師ユールコと浮気をします。やがて、イヴァーンはユールコとの決闘で命を落とし、物語は悲劇的な結末を迎えます。

受賞歴

1965年 - アルゼンチンのマール・デル・プラタ国際映画祭「南十字星」賞、FIPRESSI賞
1965年 - イタリアのローマ映画祭 フェスティバル杯
1966年 - 英国映画・テレビ芸術アカデミー(BAFTA)賞 優秀外国映画賞
* 1966年 - ギリシャのテッサロニキ国際映画祭 金メダル


『火の馬』は、その美しい映像と悲劇的な物語で、今なお多くの人々を魅了し続けている作品です。

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