無線と実験

『無線と実験』は、誠文堂新光社が発行する月刊誌として長年親しまれてきました。その歴史は、1924年、ラジオ放送開始の前年にまで遡ります。当初は、ラジオ放送を聴取するための技術啓蒙雑誌として、アマチュア無線に関する実験記事を中心に掲載していました。創刊時の発行元は、伊藤賢治氏が設立した無線実験社であり、この会社は後に誠文堂に吸収合併され、現在の誠文堂新光社に至ります。

黎明期には、誌名が示す通り実験的な内容が中心でしたが、次第に受信機製作の記事や製品紹介が増加し、エレクトロニクス全般を扱う雑誌へと発展しました。1954年には、ダイオードを改造してトランジスタを作るという画期的な記事も掲載されています。その後、オーディオ分野への関心が高まり、特にHi-Fiオーディオ関係の記事が誌面の中心となっていきました。

1960年代後半には、誠文堂新光社が新たに『電子展望』を創刊し、より専門的なエレクトロニクス情報をそちらで扱うようになりました。しかし、『無線と実験』は、ラジオでの音楽鑑賞がAMからFMへと移行する1970年代において、FMエアチェックが主流となる中で、オーディオファンの間で依然として重要な存在でした。1980年代にレンタルレコードが登場するまでは、ラジオ受信がオーディオの主要な楽しみ方の一つだったのです。

1973年には、秋田大学助教授の金田明彦氏がDCアンプ（Direct-coupled amplifier）に関する連載を開始し、それまでのアンプの常識を覆しました。この連載がきっかけとなり、DCアンプは現代アンプの基本形として定着しました。さらに、1982年頃には、元パイオニアの木下正三氏がダブルウーファーとホーンスピーカーの実験について連載を行い、オーディオ業界に大きな影響を与えました。木下氏はパイオニア退職後、レイオーディオを設立し、バーチカルツインモニタースピーカーがスタジオモニターの代名詞となりました。誠文堂新光社の視聴室にも、大型のバーチカルツインモニターが設置されていたことは特筆すべきでしょう。

2023年10月10日、『無線と実験』は、2024年1月号（2023年12月10日発売）より季刊誌となることが発表されました。年4回、3月、6月、9月、12月の10日に発売されることになり、新たな展開を迎えています。

このように、『無線と実験』は、ラジオ技術の黎明期からエレクトロニクス、そしてHi-Fiオーディオへと、時代の変遷とともにその姿を変えながら、常に日本のオーディオ文化を牽引してきた雑誌であると言えるでしょう。

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