生前葬

生前葬とは

生前葬（せいぜんそう）とは、故人ではなく、存命中の本人が自らの意思で執り行う葬儀や、それに類するお別れの会を指します。「生き葬式（いきそうしき）」や「生葬式（せいそうしき）」とも呼ばれます。死後に行われる一般的な葬儀とは異なり、文字通り「生きている間」に行われる点が最大の特徴です。

開催の目的と意義

人々が生前葬を行う主な理由はいくつかあります。最も一般的な動機は、これまでお世話になった人々や、大切な友人・知人に、生前に直接感謝の気持ちを伝えたいという願いです。人生の区切りとして、これまでの交友関係にきちんと別れを告げたいと考える人も少なくありません。

また、生前葬の大きな魅力は、自分自身の葬儀に「喪主」として参加できる点にあります。これにより、形式や内容を完全に自分自身の思い通りにデザインすることが可能です。一般的な葬儀では遺族や関係者が準備を進めますが、生前葬では主催者自身がコンセプトを決め、参加者をもてなすことができます。そのため、故人を偲ぶ厳粛な雰囲気とは異なり、明るく、まるでイベントのようなスタイルで行われることが多々あります。特定の宗教儀礼に則らない無宗教形式であったり、音楽演奏やスライド上映などを多用したり、形式は非常に多様です。カラオケ大会のようなアットホームなものから、立食パーティー形式、あるいはこれまでの人生を振り返る自費出版の自分史を参加者に配布するなど、その内容は多岐にわたります。

ただし、生前葬を行った後、本人が実際に亡くなった際に、改めて遺族が通常の葬儀を行うケースも少なくありません。

日本における広まりと実施者

日本において生前葬が一般に広く知られるようになったのは、1993年に女優の水の江瀧子さんが行ったことが大きなきっかけと言われています。それ以前にも例はありましたが、メディアで大きく取り上げられたことで注目度が高まりました。

特に日本では、広い交友関係を持つ知識人や著名人が、自らの社会的活動に一区切りをつける機会として生前葬を開催する傾向が見られます。これは、生前に多くの人々に直接挨拶を済ませ、円満な引退や人生の節目を明確にするためと考えられます。

歴史を遡ると、明治時代から生前葬を行った著名人の記録が見られます。例えば、力士の磯風音次郎は晩年に病を患い、死んだことにして生前葬を行ったという記録があります。また、社会活動家の中川横太郎や書家・画家の瀬川雅亮（独活大王）、落語家の2代目三遊亭金朝、2世曽呂利新左衛門、僧侶の中原鄧州など、様々な分野の人物が生前葬を行っています。

近現代においても、多くの著名人が生前葬を実施しています。実業家の田邊宗英、右翼運動家の児玉誉士夫は、身内の不幸などを機に行いました。狂言師の2世茂山千之丞は還暦祝いとして、倫理学者・茶道研究家の数江教一、女優の水の江瀧子、俳人の中村苑子、写真家の井上宗和は、それぞれの区切りや誕生日に合わせて開催しました。ミュージシャンの池田貴族や山田千里、医師の高橋晄正、解剖学者の養老孟司なども生前葬を行っています。

最近では、その形態も多様化しています。野球解説者の仰木彬氏はパーティーでの発言として、ねむの木学園を創設した宮城まり子氏は展覧会を「私の生前葬」と表現しました。ジャーナリストの辛淑玉氏は特定の対象への「怒りをぶつける」ために、漫画家の久米田康治氏は自身の受賞パーティーの二次会で、お笑いタレントのビートたけし氏や桑田佳祐氏（サザンオールスターズ）はテレビ番組の企画として、テリー伊藤氏は青山葬儀所で行い、仲村みう氏は芸能界引退イベントとして実施しました。また、SMAPやダチョウ倶楽部の上島竜兵氏、メッセンジャーの黒田有氏、石田純一氏など、複数人やグループ、あるいは個人のタレント・俳優が生前葬を企画・実行した事例もあります。バーチャルYouTuberのおめがリオ氏のように、オンラインでのイベントとして行う新しい形態も登場しています。

作品における描写

生前葬は、そのユニークな性質から様々なフィクション作品の題材ともなっています。坂口安吾の小説『赤罠』では主人公が生前葬を行い、過去には『明蝶のとんだことで…』というゲストの生前葬を行うテレビ番組もありました。漫画では、福本伸行の『天 天和通りの快男児』で登場人物が尊厳死の前に別れを告げる場面が描かれ、立川談四楼原作の『山遊亭海彦』、久米田康治の『かってに改蔵』や『さよなら絶望先生』でも取り上げられています。ドラマでは『風のガーデン』や『お葬式で会いましょう』で主題の一部となりました。また、1994年には第一生命のテレビコマーシャルでも泉谷しげる氏が生前葬を行う描写が使われました。

関連概念

生前葬と似た概念に「逆修（ぎゃくしゅう）」があります。これは、仏教において、存命中に自分自身（の死後）のために行う追善供養や法要のことです。自らの手で自らの冥福を祈るという点で共通しますが、生前葬が社会的なお別れや感謝の意を示すイベントとしての側面が強いのに対し、逆修はより宗教的な意味合いを持ちます。

生前葬は、人生のエンディングを自分らしくデザインし、大切な人々との絆を再確認するための現代的な選択肢の一つと言えるでしょう。

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