盤外戦

盤外戦：盤上の勝負を超えた心理的駆け引き

ボードゲームの世界では、盤上での技術や戦略だけでなく、対戦相手への心理的影響を与える「盤外戦」が存在します。これは、対局前や最中に、相手の集中力を乱したり、心理的なプレッシャーを与えたりすることで、勝負を有利に進める戦術です。盤外戦は、軍事やビジネス交渉などにも見られる戦略と類似しており、特に棋力が拮抗する相手との対戦においては、勝利への重要な鍵となる場合があります。

盤外戦の具体例

盤外戦の手法は多岐に渡ります。例えば、将棋では、相手の苦手な封じ手を時間直前に強いること、冷暖房の温度を極端に調整すること、ささやき戦術や戦法予告などが挙げられます。囲碁においても、相手を怒らせることが勝負の一部とされた時代がありました。

しかし、盤外戦の応酬が対局の妨害となることを防ぐため、相手の集中を削ぐ行為を禁止する団体も存在します。国際チェス連盟は、対局中に呟いたり、扇子を開閉するなどの行為を明文化して禁止しています。

将棋における盤外戦

日本の将棋界では、盤外戦に関する明確な罰則はありません。しかし、歴史上、多くの有名な盤外戦が語り継がれています。

例えば、木村義雄と神田辰之助の名人戦では、木村が終盤で神田の秒読みを指摘し、焦らせた結果、神田のミスを誘って勝利しました。また、升田幸三と大山康晴の「高野山の決戦」では、主催者側の恣意的なルール変更や、升田への不公平な待遇などが、盤外戦として注目されています。升田は体調不良を訴え、温暖な場所での対局を希望していたにも関わらず、寒冷な高野山での対局を強要されたのです。

大山康晴は、盤外戦の名手として知られています。彼は、盤上で勝勢になっても、一気に寄せずに相手をいたぶることで、心理的な屈辱を与え、精神的なダメージを与えました。名人戦では、１日目の終了を自分の好きなタイミングで切り上げ、旅館に呼んでいた仲間と徹夜麻雀に誘うなど、対戦相手を疲れさせる戦略も用いていました。さらに、相手が長考に入ると、視線を意識して扇子を回したり、雑談を始めるなど、集中力を妨害するテクニックも駆使しました。

一方で、二上達也のように盤上勝負にこだわり、盤外戦を行わなかった棋士もいます。近年では、ネット中継の普及などにより、派手な盤外戦は減少しつつあります。

その他の棋士の盤外戦

米長邦雄は、新聞上で対戦相手を挑発するなど、巧みな心理戦を用いました。加藤一二三は、対局条件に注文をつけることで有名で、冷暖房の調子や人工滝の音まで指摘したこともあります。中原誠は、終盤でトイレに立つことで、相手を心理的に揺さぶる戦術を用いました。藤井猛は、対局場所の変更を主張することで、有利な状況を作り出しました。

囲碁、チェス、麻雀における盤外戦

囲碁でも、藤沢秀行と坂田栄男の名人戦における封じ手に関する心理戦は有名です。チェスでは、国際チェス連盟が、対局者を動揺させる行為を禁止しています。麻雀では、競技団体によって対応が異なりますが、Mリーグでは、相手を惑わす行為がルール違反とされています。

結論

盤外戦は、ボードゲームにおける勝利戦略の一つであり、その手法はゲームの種類や時代によって変化しています。しかし、常に倫理的な問題や、スポーツマンシップとの兼ね合いが問われています。現代の棋士たちは、盤外戦を「やるべきでない」と認識しているケースが増えているものの、歴史上数々のエピソードが残っていることは、盤外戦が棋士たちの駆け引きにおいて重要な役割を担ってきたことを示しています。

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