目安箱

目安箱について

目安箱（めやすばこ）は、江戸時代に庶民の意見を集め、施政に役立てるために設置された公式な制度です。この制度は、政府が民衆の声に耳を傾ける手段として非常に重要な役割を果たし、時代を超えた歴史的な意義があります。

歴史的背景

目安箱の起源をさかのぼると、古代日本における民意を政治に反映させる試みがあったことがわかります。大化の改新（645年）によって始まった鐘櫃の制は、民衆が直接、天皇へ訴えることを可能とした画期的な制度でした。訴人が不満を感じた場合、まずは地方の名士や官僚に訴え、その結果に不満があれば、朝廷に訴えを持っていく仕組みです。これは、国家が民意を尊重し、直接的なコミュニケーションを図ることを大切にしていた証拠です。

その後、奈良時代に入ると、平城京で二柱の制という訴訟制度が施行され、さらに民意の反映が試みられました。このような後ろ盾のもと、江戸時代における目安箱の制度は起源を持っています。

江戸時代の目安箱

江戸時代の1721年（享保6年）、徳川吉宗によって設置された目安箱が特に有名です。元々、目安とは訴状を意味する言葉であり、吉宗はこの制度を通じて庶民の声を政治に反映させることを目指しました。毎月2日、11日、21日に、日本橋の評定所前に目安箱が設置され、庶民が自由に意見を投書できるようにしました。著名な町医者、小川笙船が江戸の貧民の窮状を訴えた際、彼の意見が実現するきっかけとなった事例もあります。

しかし、目安箱への投書には一定の制約がありました。投書には必ず住所と氏名が記載される必要があり、匿名の意見は無視されるか破棄されました。これは行政の透明性を確保するための仕組みであり、同時に役人に対する不満を抑える目的も持っていました。

他の藩と新政府における目安箱

江戸幕府以外でも、諸藩に目安箱が設置され、民意の反映を試みる動きが見られました。広島藩では1645年に目安箱を設置しましたが、すぐに廃止され、その後1712年に再設置されました。また、福山藩でも1742年に目安箱が設けられました。

明治維新以降、1868年には京都と東京に目安箱が設置されましたが、1869年にはこの制度が公議所への書面提出に切り替わりました。さらに、1873年には新制度が廃止され、目安箱は歴史の中から姿を消しました。

目安箱の意義

目安箱は、政治に対する民衆の意見を集約する重要な手段でありました。施行当初は、直接的に国政に影響を与える側面が強かったものの、次第に不満のガス抜きや役人の権力維持の手段と化していく部分もありました。多くの投書は黙殺され、焼却される運命にありましたが、それでも庶民が自らの声を政治に届けようとする努力は続けられました。これは、民意が重要視される近代政治の基盤を形成するための一歩であったと言えるでしょう。

結論

目安箱という制度は、日本の政治史において重要な位置を占めています。民衆の声を直接政治に反映させようとしたその試みは、後の民主主義の形成に影響を与えたとも言えます。歴史を振り返ることで、政治と民意の関係を再考することが求められています。

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