櫃

櫃（ひつ）とは

櫃とは、比較的大型の箱を指し、英語のチェスト（chest）に相当します。日本では古くから、衣類や宝物、武具などを収納するために用いられてきました。その形状や材質、装飾は、時代や地域によって多様な変化を見せてきました。

箱と櫃の違い

和名類聚抄によると、櫃は「厨に似て上に向けて開闔する器」と定義されています。一方、和漢三才図会では、小型のものを箱、大型のものを櫃と区別しています。このように、日本語でも英語でも、相対的な大きさによって区別されるという点で、共通の認識が見られます。エンサイクロペディア・ブリタニカやオックスフォード英語辞典でも、チェストは大型のボックスであると定義されており、この点からも、箱と櫃の区別は、大きさの違いに基づいていると言えるでしょう。

日本の櫃

「ひつ」という言葉は、大和言葉であり、櫃を「ひつ」と読むのは訓読みです。聖櫃（せいひつ）のように、音読みと訓読みが混ざった重箱読みの例もあります。櫃の音読みは「キ」です。

倭櫃（やまとびつ）

脚が付いていないものは、倭櫃（やまとびつ）と呼ばれます。床や地面に直接置いて使用されることが多く、簡素な形状が特徴です。

唐櫃（からびつ）

倭櫃に対して、4本または6本の脚が付いた櫃は、唐櫃（からびつ、かろうど、かろうと）と呼ばれます。唐櫃は、宝物、衣服、文書、武具などの貴重品を湿気から守るために用いられてきました。脚があることで、床との間に空間ができ、通気性を確保することができます。

また、棺も唐櫃と呼ばれることがあります。ただし、本来は「屍櫃（しひつ）」の意味であり、「屍」を「カラ」と呼ぶ例として、「なきがら」という言葉があります。このことから、墓石下の遺骨を納める空間（納骨棺）を、「かろうと」から「カロート」と呼ぶようになったとされています。

西洋のチェスト

西ヨーロッパでは、チェスト（櫃）は、家の最も安全な場所に置かれました。螺旋階段を上がった階上や地下室などが、その場所として選ばれることが多かったようです。

チェストの所有は、自由人のみに許された特権とされ、財産の象徴として扱われました。11世紀末から12世紀初頭の西ノルウェーでは、奴隷を解放する際に、教会に連れて行くか、チェストの上に座らせて宣誓させるという方法がとられていました。これは、チェストが、自由や権利を象徴する存在であったことを示しています。

中世の西ヨーロッパでは、結婚によって他の領地に移る際には、領主に税金を支払い、許可を得る必要がありました。この際、家具類にも課税され、特にチェストは、そのサイズに応じて課税されることがありました。ノルマンディー地方では、その傾向が顕著でした。

主な櫃の種類

櫃には、様々な種類があり、それぞれに特徴があります。例えば、以下のようなものがあります。

長持（ながもち）：衣類などを収納するための大型の櫃。
文机（ふみづくえ）：書類や文房具を収納するための小型の櫃。
薬箪笥（くすりだんす）：薬を収納するための、仕切りの多い櫃。

これらの櫃は、材質、形状、装飾において、それぞれの用途や時代背景を反映しており、日本の歴史や文化を知る上で、重要な役割を果たしています。

まとめ

櫃は、単なる収納道具としてだけでなく、その歴史や文化的背景を知ることで、より深く理解することができます。その形状や材質、装飾には、時代や地域の文化が色濃く反映されており、美術工芸品としての価値も高いと言えるでしょう。

参考文献
宮内悊『箱』法政大学出版局〈ものと人間の文化史〉、1991年。ISBN 4-588-20671-0。

関連項目
葛籠（つづら）
行李（こうり）
* バフト

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