神奈川奉行

神奈川奉行：横浜開港を支えた幕府機関

神奈川奉行は、江戸幕府が設置した役職で、遠国奉行の一つに数えられます。神奈川奉行所を拠点に、主に神奈川周辺地域の行政と司法を司っていました。横浜港の開港という歴史的転換期に重要な役割を果たした組織として知られています。

横浜開港と神奈川奉行の設置

1859年（安政6年）、日米修好通商条約締結に基づき横浜港が開港されました。これに伴い、港湾運営や外国人との外交、そして何より重要な治安維持を目的として、神奈川奉行が設置されました。当初は、外国奉行が兼務していましたが、1860年（万延元年）には専任となり、松平康直や都筑峰暉などが奉行に任命されました。

神奈川奉行所は、複数の場所に施設を置いていました。青木町に会所、戸部村に奉行役所（戸部役所）、そして横浜村には運上所が置かれ、それぞれ内国行政・司法、関税、外務といった異なる業務を分担していました。職員数は時期によって変動がありましたが、最大で1000人を超えたと推測されています。奉行職以外にも、奉行並、支配組頭、支配定番役取締、支配調役など多くの役職が設置され、幕臣たちが数多く登用されました。

独自の軍事力とイギリス軍との関係

攘夷思想を持つ勢力の襲撃や、国際情勢の悪化に備えるため、神奈川奉行所は独自の軍事力を持つことになります。窪田鎮章を指揮官に、幕臣から任命された士官「定番役」と、地元から徴募された歩兵「番所附下番」からなる部隊を編成しました。

特に注目すべきは、イギリス軍との関係です。1863年（文久3年）から本格化した定番役と下番の採用拡大は、イギリス軍による軍事訓練の導入と密接に関係しています。老中らの働きかけにより、駐留イギリス軍から直接軍事技術の伝習を受け、合同演習も実施されました。

しかし、1866年（慶応2年）には、定番役と番所附下番は廃止され、神奈川奉行独自の軍事力は解消されました。警備は幕府歩兵や千人隊に委ねられましたが、その後、役所附下番を改称した足軽による警備体制へと移行していきました。

明治政府による廃止とその後

1868年（慶応4年/明治元年）、明治政府は神奈川奉行所を廃止し、横浜裁判所を設置しました。その後、横浜裁判所は神奈川裁判所、神奈川府を経て、1868年（明治元年）9月21日には神奈川県へと改編されました。神奈川奉行所は、幕末から明治維新への移行期において重要な役割を果たした組織であったといえます。

略年表

1858年（安政5年）：日米修好通商条約締結、横浜開港が決定
1859年（安政6年）：横浜港開港、神奈川奉行設置
1868年（慶応4年/明治元年）：神奈川奉行所廃止、横浜裁判所設置
1868年（明治元年）：横浜裁判所が神奈川裁判所、神奈川府、神奈川県と改称

まとめ

神奈川奉行は、横浜開港という歴史的転換期において、港湾運営、治安維持、そして外交といった多様な役割を担った重要な組織でした。独自の軍事力を持つなど、その活動は多岐に渡り、幕末日本の歴史において重要な位置を占めています。その歴史を理解することは、近代日本の形成過程を理解する上で不可欠です。また、神奈川奉行所の存在は、当時の国際情勢や国内情勢が複雑に絡み合っていたことを示しており、歴史研究の上で貴重な史料となっています。

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