聖槍

聖槍（せいそう）は、新約聖書に記されている、磔刑に処せられたイエス・[[キリスト]]の死を確認するために、その脇腹を刺したとされる槍です。キリストの血に触れた聖遺物として、非常に重要な意味を持つとされています。

概要

聖槍は、しばしば「ロンギヌスの槍」とも呼ばれます。これは、槍を刺したとされるローマ兵の名前がロンギヌスであるという伝説に基づいています。また、英語圏では「運命の槍」という俗称でも知られています。聖槍は、キリスト受難の象徴であり、キリスト教の信仰において特別な位置を占めています。聖遺物崇敬が高まった時代には、複数の「聖槍」が発見され、現在も大切に保存されています。

伝説・説話

ロンギヌスの槍

イエスの死を確認するために槍を刺したローマ兵は、伝統的にロンギヌスと呼ばれています。この名前は新約聖書には登場しませんが、外典である「ピラト行伝」に付属するニコデモ福音書に登場します。ロンギヌスという名前はラテン語由来ですが、ギリシャ語でも類似した名前で呼ばれており、槍を意味する言葉と関連があると考えられています。ロンギヌスの物語は後世の創作ですが、実際にイエスに槍を刺した人物がいたことは事実でしょう。伝説によれば、ロンギヌスは白内障を患っていましたが、槍を刺した際にイエスの血が目に入ると視力を取り戻し、洗礼を受けて聖者になったとされています。

アーサー王伝説

聖槍は、アーサー王伝説にも登場します。聖杯探索の物語の中で、聖杯と共に現れる白い槍として描かれ、その穂先からは血が滴っているとされています。これはキリスト教説話としての性質を強く示しています。

史実での登場

ローマのもの

イエスの処刑から約600年後、エルサレムはペルシャ軍に占領されました。この時、聖槍の先端部が欠けてしまい、その先端部は東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルに運ばれ、宝石で飾られた十字架の中心部に埋め込まれました。その後、アヤソフィア大聖堂に収められ、さらに時を経て、槍の本体も到着しました。約600年後、フランス国王ルイ9世が先端部のみを買い取り、パリに保管されましたが、フランス革命で行方不明となります。一方、本体は15世紀にコンスタンティノープルがイスラム勢力によって陥落した時もそこに留まりました。1492年、オスマン帝国のスルタンが、かつて聖墳墓教会にあったとされる聖槍を教皇に贈りました。この槍はサン・ピエトロ大聖堂に保管されていますが、一般には公開されていません。

アンティオキアのもの

第一回十字軍がアンティオキア攻囲戦で苦戦していた時、トゥールーズ伯レイモン麾下のペトルス・バルトロメオが、聖アンデレのお告げにより聖槍を発見したと主張しました。これにより十字軍の士気は高まりましたが、槍の真贋を疑う者も多く、ペトルスは自ら神明裁判に挑み、火に飛び込みましたが、火傷が酷く死亡しました。その後、槍は行方不明となりました。

神聖ローマ皇帝のもの

神聖ローマ皇帝のレガリアの一つである聖槍は、オットー1世の時代から伝わるとされています。長らくニュルンベルクで保管されていましたが、現在はウィーンで保管されています。この槍は、外側を覆う金の鞘に「神の釘、神の槍」と書かれており、金の鞘の下には十字架が描かれた釘が埋め込まれています。さらに、金の鞘の下には銀の鞘があり、そのうちの1枚には「聖モーリスの槍」と書かれています。この槍は、ローマ軍の隊長であったモーリスが所持していたとされています。モーリスはキリスト教徒であり、皇帝の命令に背き処刑されました。その後、槍はコンスタンティヌス大帝の手に渡り、彼が勝利を収めた戦いにも用いられました。この槍は、カール大帝を経て、カール4世の時代に黄金の鞘がつけられたと考えられています。しかし、カール4世の子孫が生活に困りニュルンベルクの町議会に売り渡してしまったとされています。近年、科学的な調査によって、槍の本体は7世紀頃のものであることが判明しました。釘も同時代のものとされ、イエスの時代との関連はないとされています。

アルメニアのもの

アルメニアのエチミアジン大聖堂に保存されている聖槍は、現在のゲガルド修道院がある場所で発見されたと伝えられています。この槍は、12使徒の一人であるタダイが持ち込んだとされています。タダイは聖槍を持っていたため異教徒に恐れられ、首を刎ねられたとされています。その後、槍は200年間秘密の洞窟に隠されていたとされています。次にこの聖槍を手にしたのはグレゴリウスで、彼は聖槍を取り戻すと、王と民衆をキリスト教に改宗させ、アルメニアは世界初のキリスト教国家となったとされています。アルメニア教会は、この槍がイエスの時代のユダヤ人兵士が使っていたものであるとしています。

オカルティズム

聖槍には、「所有するものに世界を制する力を与える」という伝承があり、アドルフ・ヒトラーが聖槍に触れたことで野望を抱いたという俗説もあります。ナチス・ドイツ時代に聖槍をニュルンベルクへ移管したのは、神聖ローマ帝国の後継者であることを示すためだという見解もあります。

脚注

聖槍は、キリスト教の重要な聖遺物であり、その歴史や伝説は多岐にわたります。
聖槍とされるものが複数存在し、それぞれの来歴や伝説が異なります。
オカルト的な側面も持ち合わせ、多くの物語や伝説を生み出しています。

参考文献

[書籍名やウェブサイト名などを記載]

聖槍

聖槍

概要