肉弾

肉弾（にくだん）

概要

『肉弾』は、著者である櫻井忠温が日露戦争後の実体験を基に描かれた戦記文学作品です。この作品は、肉体を武器とし、敵陣に突進する姿を象徴的に表現しています。また、この言葉は単に作品名だけでなく、戦場で兵士たちが肉体をもって戦う姿勢を示す表現としても定着しています。

作品としての『肉弾』

『肉弾』は1906年4月25日、英文新誌社出版部から刊行され、作品の副題は「旅順実戦記」とされております。著者の櫻井忠温は、当時陸軍中尉として旅順作戦に参加し、そこで重傷を負いました。彼は箇所、銃創八か所と骨折三か所を抱えながら、自身の体験を左手で執筆し続けたのです。

明治37年の初夏、櫻井は歩兵第22連隊の連隊旗手として遼東半島へ出征します。乃木希典将軍の指揮下に、旅順攻囲戦に従事することになります。彼は初陣の歪頭山を経て、剣山の戦闘に参加しました。また、炎熱と雨にまみれた生活を強いられ、困難を乗り越えながら敵の防御線を突破するために努力します。

その後、櫻井はついに旅順要塞の本防御線に迫ります。特に、豪雨の中で行われた大孤山の攻略戦では、二日で制圧を果たすなど、その戦闘能力を遺憾なく発揮します。1898年8月21日からは、日本軍による第1回攻撃も始まり、櫻井はその際に中尉に昇進し、小隊長として戦闘に従事します。

しかし、その激しい戦闘の中で彼は次々と仲間を失い、肉弾戦の過酷さを身をもって体験します。24日未明、彼の指揮する中隊は敵の前線を突破を試みますが、多くの兵士が命を落としました。その中で、彼自身も重傷を負い、命の危機に直面します。知らぬ間に近藤竹三郎という高知連隊の兵士が彼を救い出すことで、何とか生き延びることができました。

このような壮絶な体験を背景に『肉弾』が発表された結果、歩兵第22連隊はその勇猛さから「伊予の肉弾連隊」と称されるようになります。

言葉としての肉弾

『肉弾』の言葉は、著者が戦地で「肉を以て弾と為す」と繰り返していた表現から発生しました。これにより、この言葉は特に死地に向かう兵士たちの姿を象徴するものとなりました。言い換えれば、肉体を武器として敵に突撃する姿を示すものであり、必ずしも体当たりだけが指されるわけではありません。

肉弾戦は、敵味方の兵士たちが入り混じり、熾烈な接近戦を繰り広げる戦闘形態を意味します。この表現は、特に物資の不足や技術の限界があった時期に、日本軍が誇る精神力と肉体力を象徴した言葉として広まりました。

軍事史における肉弾攻撃

第二次世界大戦においても、日本兵による対戦車肉薄攻撃が行われました。これは敵の戦車に近づき、爆薬を仕掛けたり、自らを犠牲にして攻撃を行った例です。このような自爆的な攻撃は肉弾攻撃と呼ばれることがあり、特に「爆弾三勇士」が肉弾三勇士とも名付けられるなど、その名は戦記に刻まれることになりました。

出版と影響

『肉弾』は後に何度も改版されており、1978年には復刻版が出版されています。さらに、2010年にも現代文としての版が刊行されるなど、多くの人々にその名作は広まりました。

関連項目

• - 歩兵第22連隊: 「伊予の肉弾連隊」と称され、作品『肉弾』のモデルとなった部隊です。
• - 水野廣徳: 日本海海戦を描いた『此一戦』が有名な作家です。

外部リンク

• - 肉弾 - コトバンク
• - 肉弾 - 国立国会図書館デジタルコレクション
• - Human Bullets: A Soldier's Story of Port Arthur - プロジェクト・グーテンベルク（英語）

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