胃石

胃石：動物たちの胃の中の石

胃石とは、動物の消化器官の中に存在する石のことです。英語ではgastrolith（ガストロリス）と呼ばれ、ギリシャ語の「胃」と「石」を組み合わせた言葉に由来します。胃石は、動物の種やその食性によって、大きさや形状、さらには機能も様々です。

脊椎動物の胃石

多くの脊椎動物は、飲み込んだ石を胃石として利用しています。特に、歯が小さく、食物を十分に噛み砕けない動物にとって、胃石は消化を助ける重要な役割を果たします。胃石は胃の中で食物をすり潰し、消化酵素の作用を効率化します。

アザラシ、アシカ、ワニ、そして草食性の鳥類など、様々な脊椎動物で胃石が見られます。鳥類の砂嚢と同様の機能を果たす例として、トカゲが砂を飲み込むことが挙げられます。絶滅した恐竜の一部、例えば獣脚類、竜脚類、角竜類にも胃石が存在したことが分かっています。日本の福井県立恐竜博物館では、2007年にフクイティタンの胃石を発見し、国内初の発見例となりました。首長竜の胃石も国内外で報告されています。

水生動物の場合、胃石は浮力の調整にも役立つと考えられています。ワニや首長竜は、胃石を利用して体内の浮力を調整し、水中での姿勢制御を行っていた可能性があります。

胃石の大きさは、動物の大きさや食性によって大きく異なります。小さな砂粒から、大きな礫、さらには数キログラムにも及ぶものまで、様々な大きさの胃石が発見されています。例えばダチョウの胃石は、長さ10センチメートルを超えるものもあると言われています。また、化石化した胃石は磨耗により丸みを帯びている一方、現生鳥類の胃石は、磨耗がほとんど見られないという違いも見られます。

地質学的な観点からは、恐竜化石と共に見つかった岩石が胃石であると断定するには、複数の条件を満たす必要があります。岩石が周辺の地質と異なること、磨耗によって丸くなっていること、そして恐竜の消化器があったと考えられる場所で見つかること、などが挙げられます。胃石の研究では、走査型電子顕微鏡による表面パターンの分析なども用いられています。モリスン層（ジュラ紀後期の地層）からは、多くの胃石が発見されており、「モリスンの石」と呼ばれることもあります。珪化木でできた胃石も見つかっています。

甲殻類の胃石

甲殻類の胃石は、脊椎動物とは異なり、体内で生成された炭酸カルシウムから構成されています。脱皮の際に必要なカルシウムを蓄えるための役割を果たします。脱皮前に、甲殻類は殻（外骨格）のカルシウムを血中に吸収し、胃の中に炭酸カルシウムの丸石または円盤状の胃石として析出させます。脱皮後、数日かけて胃石は血液中に再吸収され、新しい殻の形成に利用されます。

脱皮後に脱いだ殻を食べることでカルシウムを補給するという説もありましたが、ザリガニを使った実験では、脱いだ殻にはカルシウムが含まれていないことが確認されています。淡水産の甲殻類では、海水に比べてカルシウムイオンが少なく、そのため胃石が発達する傾向があります。

人間と胃石

ザリガニの胃石は、かつて「カニの目（oculi cancri）」と呼ばれ、眼病や肺病、泌尿器病などの薬として珍重されていました。江戸時代には「オクリカンキリ」と呼ばれ、万能薬として広く用いられていたようです。

まとめ

胃石は、動物の消化や生理機能に深く関わっている重要な器官です。その大きさ、形状、機能は多様であり、動物の種類や生活環境によって大きく異なります。化石の胃石は、古代動物の生態や進化を解明する上で重要な手がかりとなるだけでなく、医学や歴史の分野においても興味深い存在です。今後さらなる研究が進むことで、胃石に関する理解がより深まることが期待されます。

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