虎口

虎口：城郭防衛の要衝

概要

虎口とは、城郭や曲輪の出入り口を指し、狭く険しい場所という意味を持ちます。城の防衛において極めて重要な位置を占め、攻防の最前線として、常に厳重な防御が施されました。初期の虎口は門と脇の櫓というシンプルな構造でしたが、戦国時代には高度な技術が導入され、城郭構造の重要な要素となりました。

西日本では枡形虎口、東日本では馬出虎口が発展しましたが、時代の流れや統一政権の成立に伴い、技術的な融合が進み、それぞれの形式が全国的に広まりました。中には、内側に枡形、外側に馬出を組み合わせた二重構造の虎口を持つ城も存在し、防御力を高めていました。武田氏が築城・改修したとされる小長井城、大島城、牧之島城などは、馬出と枡形虎口を組み合わせた代表的な例です。特に小長井城は、馬出の左右と内側に枡形虎口を連鎖させる巧妙な構造を持っています。会津若松城も、北出丸と西出丸という馬出を備え、その内側に枡形虎口を配した二重構造で、幕末の戊辰戦争において大きな役割を果たしました。

虎口の類型

最も基本的な虎口は平入りで、堀や土塁の前に開口部を設けたシンプルな構造です。しかし、正面からの攻撃を受けやすいという弱点がありました。そこで、中世の山城では、虎口の前に急な坂を設ける坂虎口が用いられるようになりました。敵の攻撃勢いを弱める効果がありました。

一文字虎口は、虎口の内側に蔀、外側に芎と呼ばれる防塁を構築することで、敵の視界を遮断し、防御力を高めた構造です。

喰違虎口

合戦が拡大すると、虎口の重要性はさらに増し、より複雑で堅固な構造が求められました。喰違虎口（くいちがいこぐち）は、土塁や石垣を平行ではなく食い違わせることで、敵の進路を複雑にし、側面からの攻撃を受けやすくする構造です。S字、N字、Z字といった複雑な進路を強いられることで、敵の攻撃を効果的に阻むことができました。

枡形虎口

戦国時代後期に西日本で発達した枡形虎口は、虎口の前に方形の空間を設け、門を二重に設けることで、敵の侵入を阻む構造です。敵は枡形内部に侵入しても、第二の門で再び阻まれ、枡形内部で守備側の攻撃を受けることとなります。内枡形は曲輪の内側に、外枡形は曲輪の外側に方形空間を設けたものです。枡形の門は、高麗門と櫓門を組み合わせたものが一般的ですが、門の数が異なるものも存在します。近世城郭では、枡形虎口やそれに類する構造が広く用いられ、敵の直進を防ぐため、右折または左折構造が採用されることが多くなりました。

馬出

馬出は、主に東日本で発展した虎口の形態です。堀に面した虎口の外側に、弧状またはコの字型に土塁や石垣を築き、出入り口を残して周囲を堀で囲んだ小規模な曲輪です。大坂城の真田丸のような出郭や出丸も馬出の形状をしたものと考えることができます。

馬出の語源については諸説ありますが、馬場から馬が出入りする場所という意味から、城郭の虎口前の堡塁を指すようになったという説が有力です。後北条氏が命名した可能性も高いとされています。八巻孝夫氏の研究によると、馬出は主たる曲輪の虎口を守るための小規模な曲輪であり、通常堀で囲まれますが、必ずしも堀が設置されているとは限りません。その大きさは、虎口を守るのに必要な範囲に限定され、主たる曲輪の堀よりも小さく造られるのが一般的です。

馬出の形は、丸馬出、角馬出、不整形馬出などに分類されます。東北地方から北海道渡島半島にかけては、少なくとも27カ所の中世城館に馬出が存在したことが確認されています。東国（関東甲信越・東海）では、丸馬出は武田氏の勢力圏に、角馬出は後北条氏の勢力圏に多く分布しています。東海地方では丸馬出が広く分布しますが、角馬出は尾張、東三河、駿河に集中しています。北陸地方では、各地域の分布に大きな差はありません。中国、四国、九州地方には馬出はほとんど存在しません。

参考文献

八巻孝夫「馬出を考える：その概念とことばの由来」『中世城郭研究』
加藤理文 編『城の見方・歩き方』
西股総生 (2009) 縄張の変化と戦国大名の軍事力
三島正之「信濃堀之内城・布引城郭群の馬出の謎」『中世城郭研究』
八巻孝夫（編）「シンポジウムテーマ「馬出を考える：定義と分布」」『中世城郭研究』
石川浩治「東海地方の馬出について：分布と構造を中心に」『中世城郭研究』
佐伯哲也「越中・能登・加賀・越前・若狭・飛騨の馬出」『中世城郭研究』
室野秀文「東北地方の馬出」『中世城郭研究』
山本浩之「関東の馬出」『中世城郭研究』
山下孝司「長野県・山梨県における丸馬出のひろがり」『中世城郭研究』
高橋成計「近畿及び周辺の「馬出」について：定義と分布」『中世城郭研究』
「シンポジウム 馬出を考える：定義と分布 概要」『中世城郭研究』

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