都市農業

都市農業：都市と共存する農業の多様な役割

都市農業は、都市圏内部で、都市環境と調和しながら営まれる農業です。近郊農業とは明確に区別され、都市計画や政策において独自の視点が求められる重要な分野となっています。

都市農業の定義：統計と政策の視点

都市農業の定義は、統計データの扱い方や政策の観点によって異なります。農林統計では、都市的地域（人口密度が高く、宅地化が進んだ地域）で行われる農業を都市農業と捉えることが多いです。一方、都市計画法では、市街化区域内で行われる農業が都市農業として認識されるケースが多くあります。都市的地域の定義は、人口密度やDID（人口集中地区）の面積など、複数の指標を用いて判断されます。

都市農業の役割：食糧生産を超えた多面的価値

かつて、都市計画法では市街化区域内の農地は「宅地化すべきもの」と位置づけられていましたが、近年、都市農業の多面的価値が再認識されるようになりました。新鮮な農産物の供給という従来の役割に加え、市民農園や観光農園といったレクリエーションの場、教育や福祉の推進、災害時の防災空間の確保、緑地空間の提供による都市環境の改善など、多様な役割を担っています。

具体的には、以下の様な役割が挙げられます。

新鮮で安全な農産物の供給: 地産地消による食の安全と安心の確保に貢献します。
身近な農業体験・交流活動の場の提供: 都市住民に農業に触れる機会を提供し、食育や地域交流を促進します。
災害時の防災空間の確保: 農地は、一時的な避難場所や、救援物資の輸送路として機能します。
やすらぎや潤いをもたらす緑地空間の提供: 都市部の緑化を進め、ヒートアイランド現象の抑制や精神的なリフレッシュに貢献します。
国土・環境の保全: 農地保全による生物多様性の維持や、土壌浸食防止などの環境保全に貢献します。
都市住民の農業への理解の醸成: 農業への関心を高め、都市と農村の連携を促進します。

都市農業振興のための施策：担い手、土地、政策の三位一体

都市農業の振興のためには、以下の3つの要素が重要です。

1. 担い手の確保: 新規就農者や都市農業者、食品関連事業者、都市住民のニーズに対応できる企業など、多様な担い手を育成・確保する必要があります。
2. 土地の確保: 市街化区域内の農地を計画的に保全するため、自治体による農地買取りや税制上の優遇措置、コンパクトシティ構想との連携などが検討されています。
3. 農業施策の本格展開: 保全された農地に対し、本格的な農業振興施策を展開する必要があります。具体的には、民間企業の参入促進、市街化調整区域への編入（逆線引き）による農地保全、相続税の納税猶予制度の検討、市民農園や農業公園の整備などが挙げられます。

都市農業の歴史：高度経済成長期からの変遷

高度経済成長期には、市街地の無秩序な拡大が問題となり、都市計画法の制定や農地法改正など、農地転用に関する様々な政策が実施されてきました。固定資産税や相続税の税制についても、農地の宅地化促進と農業経営の継続との間で調整が行われてきました。その後、「都市農業振興基本法」の制定や「都市農業振興基本計画」の策定により、都市農業の保全・振興に向けた政策が大きく転換しました。

まとめ

都市農業は、食糧生産にとどまらず、都市生活の多様な側面を支える重要な役割を担っています。その重要性を踏まえ、関係者による継続的な取り組みが不可欠です。

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