鉄鼠の檻

京極夏彦『鉄鼠の檻』解説

『鉄鼠の檻』は、京極夏彦による人気シリーズ「百鬼夜行」の第4作にあたる長編推理小説です。前作『姑獲鳥の夏』の事件後、舞台を箱根に移し、奇怪な連続殺人事件が繰り広げられます。禅寺「明慧寺」で起こる不可解な殺人事件と、そこに現れる「鉄鼠」の怪異。中禅寺秋彦（京極堂）とその仲間たちが、事件の真相に迫ります。

あらすじ

昭和28年2月、箱根の旅館「仙石楼」に、骨董商の今川雅澄、雑誌記者の飯窪季世恵と中禅寺敦子、編集者の鳥口守彦らが集まります。彼らはそれぞれ、明慧寺の僧侶との商談や取材のために訪れました。そんな中、仙石楼の庭で、明慧寺の僧侶が死体となって発見されます。さらに、別ルートで箱根入りしていた中禅寺秋彦と関口巽も事件に巻き込まれていきます。

事件の舞台となる明慧寺は、地図にも載っていない謎めいた寺でした。外部との接触を極端に嫌い、独自の戒律を守って生活する僧侶たち。その閉鎖的な空間で、一人、また一人と僧侶が殺されていくのです。そして、事件の背後には「鉄鼠」と呼ばれる妖怪の影がちらつき始めます。中禅寺は、その卓越した知識と推理力で、事件の真相、そして鉄鼠の正体に迫ります。

登場人物

中禅寺秋彦（京極堂）: 陰陽師であり、古本屋の店主。豊富な知識と冷静な分析力で事件を解決に導きます。本作では、禅の思想に対する深い理解を示しつつ、その限界にも直面します。
関口巽: 小説家。中禅寺に誘われて箱根を訪れ、事件に巻き込まれます。臆病で内向的な性格ですが、事件を通して成長していきます。
榎木津礼二郎: 探偵。特殊な能力を持ち、事件を攪乱しながらも解決に貢献します。今作でも、その破天荒な行動で周囲を振り回します。
中禅寺敦子: 雑誌「稀譚月報」の編集者。冷静沈着な女性で、事件の取材を通して独自の視点を提供します。
鳥口守彦: 編集者。敦子と共に明慧寺の取材に訪れます。小心者ですが、事件に巻き込まれながらも情報収集に奔走します。
明慧寺の僧侶たち: 個性的な僧侶たちが多数登場します。了稔のように世俗的な僧侶もいれば、慈行のように戒律を重んじる僧侶もいます。それぞれの思惑が交錯し、事件を複雑化させます。

作品の特徴

緻密な推理: 京極夏彦作品の特徴である、膨大な知識に基づいた緻密な推理が展開されます。禅の思想、妖怪、そして過去の事件などが複雑に絡み合い、読者を飽きさせません。
重厚な世界観: 箱根の山奥にある寺という閉鎖的な空間、そしてそこで生活する僧侶たちの独特な世界観が、作品に深みを与えています。
魅力的なキャラクター: 中禅寺秋彦をはじめとする、個性的なキャラクターたちが織りなす人間ドラマも見どころです。それぞれのキャラクターが抱える過去や葛藤が、事件の真相に深く関わってきます。
妖怪の存在: 「鉄鼠」という妖怪の存在が、物語に幻想的な要素を加えています。しかし、単なる怪奇現象ではなく、人間の心の闇を象徴するものとして描かれています。

『鉄鼠の檻』は、単なる推理小説としてだけでなく、人間の業や心の闇を描いた文学作品としても高く評価されています。京極夏彦ファンはもちろん、本格ミステリー好きにもおすすめの一作です。

その他

漫画化: 志水アキによって漫画化され、『少年マガジンエッジ』で連載されました。
ミュージカル化: 2024年6月には、劇団イッツフォーリーズによってミュージカル化されました。

関連項目

京極夏彦
百鬼夜行シリーズ
姑獲鳥の夏
魍魎の匣
* 鉄鼠

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