銀河高原ビール

株式会社銀河高原ビール

1996年に岩手県で生まれたクラフトビールメーカー、株式会社銀河高原ビール。その歴史は、地域活性化を目指す村興し事業に端を発します。特に無濾過で醸される「小麦のビール」が広く知られ、多くのビールファンに愛されましたが、設立から約27年後の2023年にその活動を終え、解散しました。

特徴的な看板商品「小麦のビール」

銀河高原ビールのラインナップの中でも最も代表的な存在が「銀河高原ビール小麦のビール」です。このビールは、ドイツ南部で古くから親しまれている「ヘーフェヴァイツェン」というスタイルで醸造されていました。主原料には、小麦麦芽と大麦麦芽に加え、ホップと酵母が使われています。最大の特徴は、製造過程で酵母を取り除く濾過を行わない「無濾過製法」であることです。これにより、グラスに注ぐと白濁した独特の見た目となり、ヴァイツェン酵母が生み出すバナナを思わせるようなフルーティなエステル香が豊かに立ち昇ります。口に含むと、その香りと相まって、まろやかで優しい口当たりが感じられる仕上がりでした。

かつての多彩な製品群と事業再編

フラッグシップの「小麦のビール」以外にも、銀河高原ビールはかつて様々な種類のビールを製造販売していました。バナナ香とまろやかさが特徴の「ヴァイツェン」（要冷蔵）、麦芽のコクとホップの苦みのバランスが取れた英国スタイルの「ペールエール」、岩手県のキャラクター「わんこきょうだい」がデザインされたケルシュスタイルの「椀子麦酒」（地域限定販売）などがレギュラー製品として存在しました。また、季節ごとに提供される限定醸造ビールも人気を集めました。春には「白ビール」、夏には「そよ風のケルシュ」、秋には「デュンケルヴァイツェン」、冬には濃厚な味わいの「ヴァイツェンボック」が登場しました。これらの多くの製品も無濾過で、一部を除き常温での流通・保管が可能でした。しかし、経営環境の変化に伴い、2020年3月31日をもって、創業の地である沢内醸造所での生産が終了。「銀河高原ビール小麦のビール（缶）」を除く全ての製品が終売となり、ラインナップは大幅に縮小されました。その後も「小麦のビール」ブランドはヤッホーブルーイングへの製造委託によって継続されました。

幾多の変遷をたどった経営史

銀河高原ビールの設立は、1996年7月に遡ります。岩手県和賀郡沢内村（現：西和賀町）における村の活性化プロジェクトの一環として、地元の住宅メーカーである東日本ハウス株式会社（現在の株式会社日本ハウスホールディングス）の創業者、中村功氏によって、同社の関連会社として設立されました。当初は村内のリゾート施設を拠点に地ビール製造・販売を開始。折しも世は地ビールブームの最中にあり、事業は順調に拡大しました。1997年7月には岐阜県の飛騨高山と熊本県の阿蘇に、1998年7月には栃木県の那須にも工場を開設し、それぞれにビアレストランやビール園を併設するなど、全国展開を進めました。

しかし、地ビールブームが沈静化すると、過剰な設備投資が経営を圧迫します。2001年には飛騨高山・阿蘇の両工場を閉鎖し、那須工場はOEM生産専門に転換しました。同年12月には会社分割を行い、新たに銀河高原ビール株式会社を設立、旧会社は高原販売株式会社と改称し特別清算手続きに入りました。それでも経営状況は好転せず、2005年には再び清算が決定され、2006年3月には東京地方裁判所から負債総額126億円という巨額の負債を抱えて特別清算開始の決定を受けることとなりました。この経営破綻により、ブランドや製造・販売事業は、それまでOEM生産を担っていた関連会社の東日本沢内総合開発株式会社に引き継がれ、那須工場とビール園は閉鎖されました。

事業を承継した東日本沢内総合開発は、2010年 2月1日に商号を株式会社銀河高原ビールに変更。さらに2011年12月21日には、株式交換によって再び創業時の親会社である東日本ハウス株式会社（当時）の完全子会社となりました。その後、2017年 9月28日には、親会社となった日本ハウスホールディングスが保有する銀河高原ビールの全株式を、国内のクラフトビール市場を牽引する株式会社ヤッホーブルーイングに譲渡することを決定。同年10月31日に株式譲渡が実行され、銀河高原ビールはヤッホーブルーインググループの一員となりました。ヤッホーブルーイング傘下で「小麦のビール」を中心としたブランド展開は継続されましたが、前述の通り2020年には沢内醸造所での生産が終了。最終的に、株式会社銀河高原ビールは2023年に解散し、その企業活動に幕を下ろしました。

創業の地にあった施設

銀河高原ビールの物語は、岩手県西和賀町の沢内地区から始まりました。この地にあった沢内醸造所は、全国に展開された工場の中で最後まで生産を続けていましたが、2020年春に閉鎖されました。この醸造所に隣接していたのが、沢内高原温泉に位置する宿泊施設「ホテル森の風沢内銀河高原」です。旧称は「沢内銀河高原ホテル」。創業当時はここが銀河高原ビールの本社所在地であり、醸造所が併設されていました。敷地内のレストランでは、工場直送のフレッシュなビールを味わうことができ、かつてはトナカイを飼育し、ソリを引かせるユニークなアトラクションも実施されていました。2017年にヤッホーブルーイングへ経営権が移った際、当初はホテルの運営継続が検討されましたが、人手不足を理由に同年10月31日をもって休館となりました。従業員の雇用は維持される見通しとされました。その後、2020年3月27日には、沖縄のヘリオス酒造株式会社が沢内醸造所と併せて当ホテルも取得したことが発表され、ヘリオス酒造はホテル運営の新たな委託先を探す意向を示しています。

かつては2004年にタレントのみのもんた氏を起用したテレビCMが放映されるなど、メディアへの露出もありました。

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