長平の戦い

長平の戦い：秦趙の命運を分けた大戦

長平の戦いは、中国戦国時代の紀元前262年から紀元前260年にかけて、秦と趙が長平（現在の山西省高平市付近）で激突した大戦です。この戦いは秦の勝利に終わり、後の中国統一に大きく影響を与えました。しかし、その勝利の裏には、捕虜の大量虐殺という悲惨な出来事が隠されています。

戦いの背景

当時、秦は商鞅の改革によって国力を増強し、戦国七雄の中でも圧倒的な強国となっていました。その強大な軍事力を背景に、秦は周辺諸国へ度々侵攻を繰り返していました。

紀元前262年、秦は白起将軍を派遣して韓の野王を攻略しました。これにより、韓の北方の領土である上党は孤立してしまいます。韓の桓恵王は上党を秦に割譲しようとしますが、上党の守将である靳黈はこれを拒否。民衆も秦への降伏を恐れ、趙に上党を献上して、秦に対抗しようとしました。

趙の孝成王は、この提案に対して、平原君と平陽君に意見を求めました。平陽君は秦との戦争を避けるべきだと主張しましたが、平原君は領土を手に入れる好機だと述べ、孝成王は平原君の意見を採用して上党を接収しました。これに対し、秦の昭襄王は激怒し、紀元前260年に王齕将軍を派遣し、上党を占領。上党の人々は趙の長平に逃れ、秦軍はこれを追撃し、趙へ侵攻を開始しました。

戦いの経過

趙の孝成王は老将廉頗を総大将に任命し、長平城の守りを固めさせました。秦軍と趙軍は長平で対峙し、何度か小競り合いが発生しましたが、趙軍は連敗。廉頗は秦軍との正面衝突を避け、徹底した籠城戦術で秦軍の疲弊を狙いました。

2年が経過し、秦軍に焦りが見え始めた頃、秦の宰相范雎は趙国内に間者を送り込み、「秦は趙括が趙軍の指揮を執ることを恐れている」という偽情報を流しました。趙の孝成王は、守りに徹する廉頗に不満を抱いており、この偽情報を信じて、廉頗を解任し、趙括を総大将に任命しました。

趙括は、名将趙奢の子であり兵法に長けているとされていましたが、実際には実戦経験のない机上の空論家でした。趙奢は生前、妻に「趙括に大任が与えられたら、辞退するように」と遺言していました。趙括が総大将に任命された際、趙奢の妻は孝成王に直訴しましたが、聞き入れられませんでした。

一方、秦は趙軍の総大将が交代したことを知ると、密かに白起を長平に派遣しました。白起は王齕を副将とし、趙軍を迎え撃つ準備をしました。

趙軍の大敗北

着任した趙括は、大軍であることを頼みに、秦軍に攻勢をかけました。白起は囮の部隊で趙軍を誘い込み、伏兵と騎兵で趙軍の退路を遮断し、分断することに成功しました。趙括は深追いした結果、指揮系統が寸断され、趙軍は大混乱に陥りました。

趙軍は長平城まで退却しましたが、白起はこれを包囲しました。昭襄王は国内の兵力を総動員して援軍を送り、自らも前線に赴いて兵士を激励しました。包囲された趙軍は46日間兵糧が届かず、飢えた兵士たちは互いに殺し合い、その肉を食らうという悲惨な状況でした。

追い詰められた趙括は、残った兵を率いて秦軍に突撃しましたが、戦死しました。趙括の死により、残りの趙兵20万は秦軍に降伏しました。

生き埋めによる虐殺

大勝利を収めた秦軍でしたが、膨大な捕虜を養う余裕はなく、白起は趙兵を全員生き埋めにすることを決定しました。少年兵240人を除いた40万の趙兵が虐殺されました。この戦いでの趙の戦死者・被処刑者は45万人に上るとされています。

発掘調査により、大量の人骨が発見されていますが、その状況から、捕虜虐殺によるものか、戦死者の集団墓地なのか、正確な判断は難しいとされています。

戦後

白起の活躍を快く思わない秦の宰相范雎は、昭襄王を説き、秦軍の進撃を中止させました。これにより、白起は不満を抱き、出仕を拒否するようになりました。

休戦後、昭襄王は再び趙を攻めましたが、趙の激しい抵抗に遭い、苦戦を強いられました。昭襄王は白起に出陣を要請しましたが、白起は拒否。昭襄王の不満は憎悪に変わり、自決用の剣を白起に送りました。白起は、趙兵を生き埋めにしたことを後悔しながら、自決しました。

長平の戦いは、趙の国力を著しく低下させ、秦の中国統一を大きく進める要因となりました。しかし、その勝利の裏には、捕虜の大量虐殺という悲惨な出来事があったことは、忘れてはならない事実です。

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