長谷川貞信

長谷川貞信（はせがわ さだのぶ）

長谷川貞信は、文化6年（1809年）に生まれ、明治12年（1879年）に没した、江戸時代後期から明治時代にかけて大坂で活躍した浮世絵師です。

生涯

幼名を文吉、後に徳兵衛と名乗った貞信は、初め貞宣といい、有長、緑一斎、信天翁、南窓楼、雪花園、猶園、五双亭、浪華亭、信翁、蘭考、愛薫、雀叱など、数多くの号を持ちました。大坂南船場安堂寺町浪花橋筋（現在の大阪市中央区安堂寺町）で茶巾・袱紗を商う奈良屋治助の三男として生まれました。

幼少の頃から絵の才能を発揮し、四条派の絵師である上田公長に入門し、有長の画名を授かります。この名は、貞信の穏やかで優しい性格から名付けられたと言われています。しかし、修行中に実家が商売に失敗し没落したため、家業を継ぐことを諦め、浮世絵師として身を立てることを決意します。

当時、大坂で評判だった歌川貞升に師事し、浮世絵の本格的な修行を積みました。天保年間（1830年-1844年）の頃から役者絵で頭角を現し、上方絵が天保の改革の影響で一時衰退していた中、その復興に大きく貢献しました。

貞信は、美人画、芝居絵、役者絵、根本（絵入りの物語）なども手掛けましたが、特に風景画、名所絵で知られています。明治時代に入ると、開化絵も多く描きました。晩年は堀江市の側に住みました。

風景画の代表作としては、歌川広重の画風に近い「東海道五十三次」や、京阪の名所を描いた「浪花百景」上・中巻、「近江八景」などがあります。美人画では「浪花自慢名物尽」が知られています。絵入根本としては、安政2年（1855年）に刊行された『吾嬬下五十三駅』（あずまくだりごじゅうさんつぎ）全12冊などがあります。その他、歌謡書『よしこの花ぞろへ』や、明治6年（1873年）には啓蒙書『開化乃入口』の挿絵なども手掛けました。

明治8年（1875年）に隠居し、その後は急を要しないものに限って筆を執っていましたが、明治12年（1879年）3月28日に71歳で亡くなりました。墓所は大阪市天王寺区六万体町の天鷲寺にあり、法名は寿徳院潤生諦忍善士です。

長男の初代長谷川小信は二代目長谷川貞信を継ぎ、その画系は現在、長谷川笑子まで続いています。次男の貞吉は2代目長谷川小信を継いでいます。貞信の門人には、長谷川信広、長谷川貞政、長谷川貞春などがいます。

主な作品

「浪花百景之内」 横中判60枚揃 安政～明治
「浪花自慢名物尽」 中判 幕末
「名所江戸百景張交」 歌川広重の「名所江戸百景」を5枚づつ合わせた作品。
「於駒長吉 尾上多見蔵」 大判
「物くさ太郎」 大判2枚続 天保8年（1837年）
「鬼一法眼三略巻」大判2枚続
「けいせい小倉色紙」大判
「鎌倉三代記」大判2枚続
「浪華百景 心斎橋通初売之景」 大判
「須磨都源平躑躅」 中判2枚続
「2代目中村富十郎の蘭の方 2代目片岡我童の香具屋弥七」 大判2枚続 天保11年（1840年）
「2代目中山南枝のみゆき 実川延三郎の宮城阿曽次郎」 中判2枚組 嘉永元年（1848年）

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