頭蓋変形

頭蓋変形とは

頭蓋変形は、人為的に頭の骨、すなわち頭蓋を変形させる身体改造の一種です。この風習は、新生児から乳児にかけてのまだ柔らかい頭蓋骨に圧力を加えることで行われます。

頭蓋変形の概要

人間の頭蓋骨は、生まれたばかりの頃は完全に接合されておらず、泉門と呼ばれる隙間があります。この状態を利用し、意図的に圧力を加えることで頭の形を変形させ、その状態で骨を接合させます。しかし、脳は人間の精神を司る重要な器官であるため、頭蓋変形には倫理的な問題が伴います。特に、本人の意思に関係なく行われる場合、文化的な風習と児童虐待の境界線が曖昧になるため、多くの社会で否定的に捉えられています。

脳への影響については、現存する事例が限られているため、まだ不明な点が多いのが現状です。

変形の形態と文化的背景

頭蓋変形の形態は様々で、意図的な変形だけでなく、伝統的な育児方法、例えば揺りかごの使用などが原因で自然に変形し、それが民族集団の象徴となるケースもあります。ロシアの研究によると、中央アジアの遊牧民にその例が見られるといいます。

ユーラシア大陸

ユーラシア大陸では、紀元前2000-1000年頃に中央アジアで頭蓋変形が見られ、その後、紀元前750-500年頃に再び現れます。後者はフン族の侵入と関連があると考えられており、フン族が使用していた揺りかごによって頭蓋が変形したことが、他の地域で集団を示す象徴として取り入れられたという説があります。

ヨーロッパ

ヨーロッパでは、クリミア地方を中心に、イギリス、スイス、ドイツ、オーストリア、ハンガリーなどで、キリスト教が浸透する以前の古墓から変形した頭蓋骨が発見されています。地域は散発的です。

15世紀のドイツ、16世紀のギリシャやトルコ、17世紀のベルギーやパリでも頭蓋変形が行われていたという記録があります。フランスのトゥールーズ地方では、19世紀に「トゥールーズ型」と呼ばれる鞍型の頭蓋変形が女性の間で行われていました。その目的については、頭巾を被るため、美的観念から、優生学的な意味合いからなど、様々な説があります。トゥールーズ型頭蓋は、ブルターニュ、ノルマンディー、ガスコーニュ地方でも見られ、20世紀半ばまでその風習が残っていた地域もあったとされています。

東アジア

東アジアにも事例があり、日本では弥生時代終末期（3世紀）と古墳時代中期（5世紀）に確認されています。弥生時代の例としては、鹿児島県南種子町の広田遺跡から出土した人骨が挙げられます。広田遺跡では、他の地域には見られない特異な習俗として、上顎の側切歯を抜歯したり、後頭部が扁平であるといった特徴が見られます。古墳時代の例としては、熊本県和水町の前原長溝遺跡や松坂古墳から出土した人骨があります。松坂古墳では、幼児期に布を巻かれて頭が変形させられたと考えられる人骨が見つかっています。

新大陸

新大陸では、チリなどで紀元前2650年頃から頭蓋変形が見られます。また、テキサス南部の絶滅した部族も19世紀までこの風習を行っていました。メキシコなどメソアメリカでも、先古典期中期段階のオアハカ地方やオルメカ文明の彫像に見られ、マヤ文明では一般的な習慣でした。変形が加えられた人骨が手厚く葬られていることから、変形の度合いが社会的な地位に関係していた可能性が指摘されています。

南米

南米では、チチカカ湖沿岸や南海岸で頭蓋変形がよく知られています。形態は様々で、頭を前後に挟んで細長く伸ばしたり、左右に幅広く変形させたりするものがあります。スペイン人が征服した頃までこの習慣は残っており、20世紀初頭までブラジルのアマゾン地域で見られたという説もあります。これらの地域では、乳児の頭に当て布をし、2枚の木の板で挟んで紐で縛るという方法が用いられていたことが、スペイン人宣教師の記録に残されています。

まとめ

頭蓋変形は、文化、社会、倫理など、様々な側面から考察する必要がある興味深い風習です。現代社会においては、その倫理的な問題から衰退傾向にありますが、過去には様々な地域で独自の形態と意味を持って存在していました。

参考文献

- 吉岡郁夫『身体の文化人類学-身体変工と食人』雄山閣、1989年12月。ISBN 4-639-00932-1