駒形どぜう

駒形どぜう（こまかたどぜう）

江戸時代から続く、東京・駒形を代表する伝統的な飲食店です。その名の通り、泥鰌（どじょう）を用いた料理、特に「どぜうなべ」で広く知られています。

歴史と由来

駒形どぜうの始まりは、享和元年（1801年）に遡ります。初代である越後屋助七が武蔵国（現在の埼玉県の一部）から江戸へ出て奉公を重ねた後、浅草駒形の地に飲食店を開業したのが創業とされています。当時、駒形は浅草寺へ向かう主要な道筋にあたり、特に翌年から浅草寺のご開帳が始まったことも重なり、店は大変な賑わいを見せました。

店名の表記についても、初代助七の発案による独特のこだわりがあります。本来「どぢやう」と表記されるところを、縁起が良いとされる奇数の文字数にこだわり、「どぜう」という三文字を採用しました。この「どぜう」表記が定着したのは、文化3年（1806年）に発生した江戸の大火（文化の大火）で店舗が焼失した際のことです。助七は、当時の著名な看板書きであった撞木屋仙吉に頼み込み、縁起を担いで「どぢやう」ではなく「どぜう」と書いてもらったといわれています。この独特の表記はやがて他のどじょう料理店にも倣われるようになり、一般的に広まっていきました。

二代目助七も順調に商売を受け継ぎ、店の評判はますます高まります。嘉永元年（1848年）に刊行された、当時の食に関するガイドブックともいえる『江戸名物酒飯手引草』にも、その名が紹介されています。

その後も、駒形どぜうは激動の時代を生き抜いてきました。大正12年（1923年）の関東大震災や、第二次世界大戦中の昭和20年（1945年）3月10日の東京大空襲によって二度にわたり店舗を焼失しますが、その都度、再建を果たし、伝統の灯を守り続けています。

伝統の味

駒形どぜうの看板料理といえば、やはりどぜうなべです。これは、生きたままのドジョウにたっぷりと酒を振りかけ、十分に酔わせた上で、江戸甘味噌仕立ての汁でじっくりと煮込むという独特の調理法で供されます。この、ドジョウに酒を飲ませるという発想も、初代が当時の高級品であった酒をドジョウに試してみようと考えたことから始まったといわれています。

熱々の鉄なべに並べられたどぜうなべは、卓上に豊富に用意されている刻みねぎをたっぷりと乗せて味わうのが江戸の昔からの流儀です。薬味として山椒や七味なども用意されています。

どぜうなべの他にも、卵でとじたどぜう柳川なべや、滋味深いどぜう汁などが提供されています。また、二代目が始めたとされるくじら鍋も、同店のもう一つの名物として親しまれています。これらの伝統料理を、ごはんや田楽などと組み合わせた定食メニューも用意されており、手軽に味わうことができます。

店内のしつらえ

駒形どぜうの本店は、江戸通りに面しており、江戸時代の商家を思わせる総檜造りの重厚な外観が特徴です。二階部分は黒漆喰で覆われており、これはかつて通行する大名行列を見下ろすことのないよう配慮されたといわれています。また、「柳の下に二匹目のドジョウ」ということわざにあやかり、縁起担ぎとして店先には柳の木が植えられています。

暖簾をくぐって一歩足を踏み入れると、そこには江戸情緒あふれる「入れ込み席」と呼ばれる広間が広がります。掘りごたつ式の席ではなく、座敷の中央に大きな鉄鍋が置かれた昔ながらのスタイルで、江戸の風情を肌で感じながら食事を楽しむことができます。一方で、2階や地下1階には椅子席も設けられており、宴会や会食など、様々な用途で利用できるようになっています。

文化活動と店舗情報

駒形どぜうは、食を提供する場であるだけでなく、江戸文化を伝える拠点としての活動も行っています。本店では、隔月に一度「江戸文化道場」と題した講座を開催しており、江戸の食文化はもちろん、芸能、工芸、文化論といった様々な分野の専門家を招いて学びの機会を提供しています。この講座は100回を超える開催実績があり、平成23年（2011年）にはその活動が評価され、メセナ大賞「地域文化賞」を受賞しました。

年間を通じて、1月の創業祭や7月の上旬に行われる「うちわ出し」など、伝統にちなんだイベントも開催されています（うちわ出しは本店と渋谷支店で実施）。

本店の所在地は東京都台東区駒形1-7-12です。交通アクセスとしては、都営浅草線の浅草駅から徒歩約2分と最も近く、その他、東京メトロ銀座線や東武スカイツリーラインの浅草駅、都営大江戸線の蔵前駅からも徒歩圏内です。

本店のほか、東京都渋谷区にも支店を展開しており、江戸の伝統の味をより広い地域で提供しています。

幾多の困難を乗り越え、二百年以上にわたり江戸の食文化と味を守り続ける駒形どぜうは、東京を訪れる多くの人々に愛される老舗です。

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