あゝ野麦峠 (1979年の映画)

映画『あゝ野麦峠』：過酷な労働と少女たちの哀歌

『あゝ野麦峠』は、1979年に公開された日本の社会派映画であり、山本茂実の同名ノンフィクションを原作としています。監督は山本薩夫が務め、主演は大竹しのぶが演じました。この映画は、明治時代初期の製糸工場で働く少女たちの過酷な労働環境と、その中で生きる少女たちの悲哀を描いています。

映画の背景と製作

原作は1968年に出版されたルポルタージュで、映画化の企画は1969年に初めて発表されました。当初は吉永小百合主演で内田吐夢監督による製作が予定されていましたが、資金面の問題から実現には至りませんでした。その後、1979年に持丸寛二という人物が資金を拠出し、東宝が配給を担当することで映画化が実現しました。

持丸寛二は映画業界とは縁遠い人物でしたが、原作に感銘を受け、多額の資金を投入しました。これにより、映画は1978年11月にクランクインし、1979年6月に全国公開されました。

あらすじ

物語は、20世紀初頭の岐阜県と長野県の境に位置する野麦峠が舞台です。主人公の政井みね（大竹しのぶ）は13歳の少女で、貧しい家計を助けるため、飛騨地方の寒村から長野県岡谷市の製糸工場に働きに出ます。

彼女の仕事は、繭から生糸を取る「糸取り」という作業です。その労働環境は想像を絶するほど過酷で、朝4時半に起床してから深夜まで、15時間近く働き続けました。工場内は気温40度に達する蒸し風呂状態で、換気も十分ではありませんでした。このような劣悪な環境が、結核などの感染症を蔓延させる温床となりました。

やがて、みね自身も結核に感染し、重度の髄膜炎を発症します。しかし、十分な治療を受けることができず、隔離小屋に寝かされるだけでした。最終的に、兄の辰次郎（地井武男）に背負われて故郷に帰る途中、みねは息を引き取ります。

キャスト

主要なキャストは以下の通りです。

政井みね：大竹しのぶ
篠田ゆき：原田美枝子
三島はな：友里千賀子
庄司きく：古手川祐子
足立藤吉（製糸会社の社長）：三國連太郎
政井友二郎：西村晃
政井辰次郎：地井武男
足立春夫（藤吉の息子）：森次晃嗣

その他にも、多くの俳優が出演しており、それぞれの役柄を鮮やかに演じました。

作品の評価と影響

本作は、公開当時、社会派映画としては異例のヒットを記録しました。14億円の配給収入を上げ、1979年の邦画配給収入ランキングで第2位となりました。また、キネマ旬報ベストテンでも9位に選ばれるなど、高い評価を得ました。

映画のヒットは、当時の社会問題に再び光を当てるきっかけとなり、多くの人々に感動と衝撃を与えました。しかし、映画のイメージが先行したため、野麦峠の資料館では、より多角的な視点からの展示も行われるようになりました。

受賞歴

本作は、数々の映画賞を受賞しました。

第34回毎日映画コンクール：日本映画大賞、音楽賞（佐藤勝）、撮影賞（小林節雄）、美術賞（間野重雄）
第33回日本映画技術賞：撮影賞（小林節雄）、美術賞（間野重雄）、録音賞（渡会伸）、照明賞（下村一夫）
* 第3回日本アカデミー賞：最優秀音楽賞

これらの受賞は、映画の芸術性や技術の高さを証明するものでした。

テレビ放送とソフト化

劇場公開後、テレビ放送の権利は日本テレビに売却され、1980年4月に放映されました。当時の映画界の慣習を破る早さでのテレビ放送は、業界内で波紋を呼びましたが、視聴率は34.3%という高視聴率を記録しました。

その後、長らくビデオ化されていませんでしたが、2014年にDVDが発売され、現在では視聴が可能となっています。フィルムは一時所在不明でしたが、2011年頃に個人が所有していたことが判明し、東宝に管理が委託されました。

まとめ

『あゝ野麦峠』は、明治時代の女工たちの過酷な労働環境と、そこで生きる少女たちの悲哀を描いた作品です。映画は、当時の社会問題に光を当て、多くの人々に感動と衝撃を与えました。また、映画としての芸術性や技術も高く評価され、数々の賞を受賞しました。現代においても、この映画は、日本の歴史と社会問題を考える上で重要な作品と言えるでしょう。

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