いすゞ・ワスプ

いすゞ・ワスプ：小型トラック市場への挑戦と挫折

1963年から1971年にかけて、いすゞ自動車が製造販売した1トン積みの小型トラック「ワスプ」は、同時期に発売された乗用車「いすゞ・ベレット」を彷彿とさせるキャビンデザインが特徴でした。しかし、その類似性はコスト削減策に端を発し、ベレットのスポーティなイメージ戦略とは無関係でした。

ワスプは、当時市場を席巻していたダットサントラックや日野・ブリスカといった強力なライバル車に対抗すべく、いすゞが小型トラック市場に参入するべく開発した意欲作でした。搭載エンジンは、ベレットの廉価モデルと同型の1325cc、58馬力のガソリンエンジンと、当時小型トラックとしては珍しい1764cc、50馬力のディーゼルエンジンの2種類が用意されていました。ディーゼルエンジンは、小型化が技術的に困難だった時代背景を反映したものです。

しかしながら、ワスプの販売は伸び悩みました。その要因として、当時としてはまだ珍しかった小型ディーゼルエンジンは、騒音や振動、黒煙の問題を抱えており、ユーザーから敬遠されたことが挙げられます。また、ダットサントラックなど競合他社の製品に対して、ワスプが技術的な優位性を明確に打ち出せていなかった点も販売不振の一因と言えるでしょう。

シャシ構造は、ベレットとは異なり、セパレートシャシを採用。サスペンションは前輪が独立懸架式ですが、コイルばねではなくトーションバー・スプリングを使用するなど、コスト削減を意識した設計となっています。後輪は固定車軸式でした。これらの設計は、販売台数の増加には貢献せず、市場における競争優位性を築くには至りませんでした。

ワスプは、1972年に「フローリアン」をベースとした後継車種「ファスター」にバトンタッチします。GMとの提携強化を背景に、ファスターは対米輸出において大きな成功を収めることになります。ワスプの開発は、小型トラック市場におけるいすゞの挑戦と、その後の発展への重要な足がかりとなったと言えるでしょう。

派生モデルとして、バンタイプの「いすゞ・ベレットエキスプレスバン」も存在しました。こちらは1968年にフローリアンバンが登場するまで生産されていました。

車名の由来は、英語で「蜂」を意味する「Wasp」です。このネーミングには、蜂の働き者なイメージや、小柄ながら力強いイメージなどを想起させる意図があったのかもしれません。しかしながら、販売面での成功には繋がりませんでした。

ワスプは、市場競争の激しさや技術的な課題、そして販売戦略の難しさなど、自動車メーカーが直面する様々な問題を浮き彫りにしたモデルと言えます。その歴史は、日本の自動車産業発展の一端を示す貴重なものです。いすゞ自動車の歩み、そして日本の小型トラックの歴史を知る上で、ワスプは無視できない存在と言えるでしょう。

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