いすゞ・ベレット

いすゞ・ベレット：日本の自動車史に名を刻む小型車

1963年から1973年にかけていすゞ自動車が製造し、1974年まで販売された小型乗用車、ベレット。その歴史と魅力を多角的に探ります。ベレットは、技術者主導で開発された革新的モデルとして、1960年代の日本車市場を代表する存在でした。卵型のボディは当時としては斬新で、1トンを切る軽量ボディを生かしたモータースポーツでの活躍も記憶に新しいです。スカイラインが台頭する以前は、サーキットを席巻する存在感を示しました。

車名の由来と個性

車名の由来はいすゞの上級車種であるベレルの小型版を意味する造語です。ベレルとは異なり、ベレットは数々の新機軸を盛り込んだ個性的なモデルでした。特にスポーツモデルでは、日本初となるディスクブレーキを採用するなど、技術的な先進性も際立っていました。四輪独立懸架による優れた路面追従性と鋭いハンドリングは、当時の日本車では類を見ない運動性能を実現し、「和製アルファロメオ」と称されるほど高く評価されました。また、日本で初めて「GT（グランツーリスモ）」を名乗るモデルを設定したことでも知られています。

長期生産と市場の変化

多くのいすゞ車と同様に、ベレットはフルモデルチェンジの機会に恵まれませんでした。そのため、競合他社の新型車攻勢や市場ニーズの変化に対応する抜本的な改良が遅れ、約10年にわたって生産が継続されました。1970年代に入ると、車体の小型化が競合車の拡大の中で相対的に不利となり、商品力の低下を招きました。販売台数の減少に伴い、1973年に生産終了、翌1974年には販売も終了しました。いすゞ公式ウェブサイトによると、総生産台数は170,737台、そのうちGTは17,439台です。現在でもGTモデルは高い人気を誇り、多くの愛好家やオーナーズクラブが存在しています。

メカニズムとバリエーション

ベレットは後輪駆動方式を採用し、エンジンは1300cc、1500cc、1600cc、1800ccのガソリンエンジンと、いすゞらしい1800ccディーゼルエンジンが用意されていました。OHV、SOHC、DOHCなど、様々なエンジン仕様が設定されていたことも特徴です。サスペンションは、国産FR量産車としては早くから四輪独立懸架を採用。前輪はダブルウィッシュボーン、後輪はダイアゴナルスイングアクスルでしたが、ジャッキアップ現象によるテールスライドなどの課題もありました。1966年以降は、後輪をリーフリジッドとしたタイプBも追加されています。ステアリングはラック・アンド・ピニオン式を採用し、高い応答性を実現しました。トランスミッションは4速MTが基本で、1965年には3速ATも設定されました。コラムシフトとフロアシフト、ベンチシートとバケットシート、ドラムブレーキとディスクブレーキなど、幅広い組み合わせを選択できたのも特徴です。

沿革とモデルバリエーション

1963年6月、ベレットは1500cc OHVと1800ccディーゼルモデルでデビュー。翌年には1300ccモデルが追加されました。1965年にはAT車が追加され、1966年にはフェイスリフトと同時に後輪リーフリジッドサスペンションのタイプBが追加されました。1968年には1600ccモデルが加わり、1969年にはGTを含む1600cc車がSOHC化されました。1971年のマイナーチェンジでは、フロントグリルがブラックマスクとなり、フロントバンパーやヘッドライト、テールランプも変更されました。1973年10月に生産終了となり、ジェミニへとバトンタッチしました。

ベレットGT

1964年4月に登場したベレット1600GT（ベレG）は、日本初のGTカーとして有名です。日本初のディスクブレーキ搭載車でもあり、高トルクの1600cc OHV エンジン、流線型のクーペボディ、そして特徴的なフェンダーミラーが魅力でした。その後、SOHC エンジン搭載モデルや1800ccモデル、さらにはDOHC エンジンを搭載したGT typeRなども登場しました。GT typeRは、鈴鹿12時間耐久レースで優勝したGTXをベースに開発され、サーキット走行を意識した仕様となっています。

ベレットMX

1969年の東京モーターショーで発表されたミッドシップエンジンの試作車ベレットMX1600。イタリアのカロッツェリア・ギアによるウェッジシェイプのデザインとFRPボディが特徴でした。117クーペ用の1600cc DOHC エンジンを搭載していましたが、量産化には至りませんでした。

まとめ

ベレットは、技術革新とモータースポーツでの成功、そして長期間にわたる販売を通じて、日本の自動車史にその名を刻みました。その個性的なデザインと高い運動性能は、多くのファンを魅了し続け、現在でも多くの愛好家から愛されています。ベレットは、単なる自動車ではなく、時代を象徴する存在として、これからも語り継がれていくでしょう。

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