いすゞ自動車硬式野球部

いすゞ自動車硬式野球部

いすゞ自動車硬式野球部は、かつて神奈川県藤沢市を本拠地として活動していた社会人野球の企業チームです。日本野球連盟に所属し、社会人野球の主要大会で数々の記録を残しましたが、2003年からは休部状態となっています。神奈川県の企業チームとしては最も長い歴史を持つ存在でした。

チームの黎明期と発展

チームは1946年、いすゞ自動車の前身にあたるヂーゼル自動車工業の川崎工場にて産声を上げました。創部当初から社会人野球界で注目され、苅田久徳といった著名な選手もその初期メンバーに名を連ねています。活動開始初年度から都市対抗野球大会への出場を果たすなど、その実力は早くから全国に知られることとなりました。特に1959年と1968年には都市対抗でベスト8に進出するなど、強豪チームとしてその地位を確立していきます。

困難な時代と復活への道

しかし、1971年の都市対抗出場を最後に、チームは10年以上にわたって都市対抗本戦から遠ざかる長い低迷期に突入します。この期間には、親会社の業績不振がチームにも影響を及ぼし、廃部の危機に直面しました。本拠地も川崎市から藤沢市に移転するなど、チームを取り巻く環境は厳しさを増しました。
転機が訪れたのは1987年、所正美氏が監督に就任してからです。所監督はチームの再建に乗り出し、謝長亨や康明杉といった実力のある選手を獲得するなど、わずか2年間で24人もの部員を入れ替える大胆な改革を断行しました。この改革が実を結び、チームは着実に力をつけ、1989年には実に18年ぶりとなる都市対抗野球の本戦出場を果たし、完全復活を印象付けました。さらに、1993年には都市対抗でベスト4に進出するなど、再び全国の舞台で存在感を示しました。

栄光と休部

チームは2001年には社会人野球日本選手権大会に初出場を果たし、さらなる高みを目指しました。しかし、2002年2月、親会社の事業再建計画の影響により、バスケットボール部とともに同年シーズン終了後の休部が発表されました。活動終了が決定した最後のシーズン、チームは驚異的な粘りを見せます。そして、迎えた第73回都市対抗野球大会で見事勝ち進み、チーム史上初となる全国制覇を達成しました。栄光のうちに活動を終えることとなったいすゞ自動車硬式野球部は、同年9月、藤沢市民まつりにて優勝パレードを実施し、多くの市民に惜しまれながらその長い歴史に幕を下ろしました。

主な大会成績

いすゞ自動車硬式野球部が残した主要大会での成績は以下の通りです。

| 大会名 | 出場回数 | 最高成績 | 優勝回数・年 |
| :------ | :- | :-- | :--- |
| 都市対抗野球大会 | 14回 | 優勝 | 1回（2002年） |
| 社会人野球日本選手権大会 | 1回 | | |
| JABA東京スポニチ大会 | | | 2回（1946年、1964年） |
| JABA東北大会 | | | 2回（1970年、1971年） |
| JABA日立市長杯選抜野球大会 | | | 1回（1993年） |
| JABA静岡大会 | | | 1回（1978年） |
| JABA広島大会 | | | 2回（1968年、1969年） |

チームを彩った人々

いすゞ自動車硬式野球部からは、多くの著名な野球人が輩出されました。プロ野球の世界へ羽ばたいた選手も多数おり、杉下茂投手（中日）、永尾泰憲内野手（ヤクルト）、佐野心外野手（中日）、酒井泰志投手（ロッテ）などがその代表例です。また、退団後にプロ入りした選手や、プロ野球経験後にチームに在籍した選手も存在しました。
さらに、監督としてチームを率いた所正美氏、2002年の都市対抗で橋戸賞に輝いた長谷高成泰内野手、キューバからの留学生として話題となったルルデス・グリエル選手、台湾プロ野球で活躍した謝長亨投手など、国際色豊かな顔ぶれも揃っていました。チームを離れた後、大学や高校野球の指導者として全国優勝を成し遂げた古城隆利氏（日体大監督）や荒井直樹氏（前橋育英高監督）も、いすゞ自動車硬式野球部OBです。

短くも波乱に満ちたその歴史は、社会人野球史において重要な一頁を飾っています。

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