第73回都市対抗野球大会

第73回都市対抗野球大会 概要

2002年（平成14年）8月26日から9月3日までの期間、東京ドームを舞台に第73回都市対抗野球大会が開催されました。この大会は、社会人野球を取り巻く環境の変化、特に企業チームの減少といった状況を受け、いくつかの新たな試みが行われた特別な回となりました。

大会を主催する日本野球連盟は、都市対抗野球の価値を高めるため、従来の32チームから試験的に出場チーム数を28に削減しました。しかし、この変更は現場関係者やファンの間で不評を買い、結果として翌年の大会では再び32チームに戻されています。

また、開催時期も従来の7月下旬から大きく変更され、約1ヶ月遅い8月下旬に開幕しました。これは、高校野球などの大きなイベントとの重複を避け、メディアへの露出機会を増やそうという意図がありました。この時期の開催は、過去に夏季オリンピック（1992年バルセロナ、1996年アトランタ）と日程が重なった際の特例を除けば珍しいケースであり、この第73回大会以降、2010年まで（2011年も同様の予定だったが10月に延期）は8月下旬から9月上旬にかけて開催される流れが定着しました。

前年大会から導入された制度として、優勝チームは1年間、ユニフォームの袖に「黒獅子エンブレム」をつけてプレーする権利を得ましたが、前年優勝の河合楽器は、優勝からわずか約2ヶ月後に電撃的な廃部を発表するという事態になりました。そのため、開会式では、すでに使用されなくなったユニフォーム姿となった一部の選手たちが、優勝旗などの返還を行うこととなりました。

出場枠が狭まった厳しい予選を勝ち抜き、伏木海陸運送と一光の2チームが都市対抗の本大会に初めて出場しました。一方で、野球どころである川崎市の代表が53年ぶりに本大会出場を逃すなど、予選段階から様々なドラマが生まれました。

大会本戦では、この回が本大会初勝利となったことで勢いに乗ったホンダ熊本と、同年末での休部が決定していたいすゞ自動車が勝ち上がり、決勝で相まみえました。決勝は激戦となり、いすゞ自動車がホンダ熊本を破り、念願の黒獅子旗を初めて手にしました。しかし、規定により黒獅子エンブレムは準優勝チームに与えられることとなり、ホンダ熊本がこれを獲得しました。

この大会を最後に、約50年の活動に幕を下ろす協和発酵や、統合により廃部となるNKKなど、いくつかの歴史ある企業チームが社会人野球の舞台を去りました。

野球のルール面では、このシーズンから企業チームが出場する大会での金属バット使用が禁止され、24年ぶりに木製バットが採用されたことが大きな変化でした。この影響は本塁打数に如実に現れ、前々回大会の106本、前回大会の96本から激減し、わずか30本にとどまりました。

メディアによる中継体制も拡充され、従来のNHK BS1、GAORAに加え、この年からデータ放送のBS「デジキャス」でも時間帯を区切りながら生中継が行われました。

大会は、予選を経て選ばれたチームがトーナメントを戦い、様々な熱戦が繰り広げられました。決勝戦は、前述の通りいすゞ自動車とホンダ熊本の間で行われ、いすゞ自動車が勝利し、初の栄冠に輝きました。

決勝戦（9月3日）
いすゞ自動車 5 - 2 ホンダ熊本
勝：酒井　敗：奥本
本塁打：西郷（いすゞ）
いすゞ自動車は初優勝

表彰選手
橋戸賞（最優秀選手）：長谷高成泰内野手（いすゞ自動車）
久慈賞（敢闘賞）：平野佑介投手（ホンダ熊本（九州三菱自動車））
小野賞（応援団優秀賞に準ずる賞）：大津町・ホンダ熊本チーム
首位打者賞：長谷高成泰内野手（いすゞ自動車）
打撃賞：青山眞也外野手（王子製紙（JR東海））
若獅子賞（新人賞）：
酒井泰志投手（いすゞ自動車）
稲田直人内野手（NKK）
平野佑介投手（ホンダ熊本（九州三菱自動車））

大会優秀選手
投手：平野佑介（ホンダ熊本（九州三菱自動車））、坂本保（ホンダ熊本）、酒井泰志（いすゞ自動車）、巴田誠（いすゞ自動車（新日本石油））、丸尾英司（松下電器）、黒田信広（NTT東日本）、前田克也（NTT西日本）、武田勉（サンワード貿易（室蘭シャークス））
捕手：高井克昌（ホンダ熊本（日産自動車九州））、九鬼義典（松下電器）、松本洋介（いすゞ自動車）
一塁手：西郷泰之（いすゞ自動車（三菱ふそう川崎））、高梨利洋（サンワード貿易）、佐藤康彦（王子製紙）
二塁手：長谷高成泰（いすゞ自動車）、高橋賢司（NTT東日本）
三塁手：玉城一（NTT東日本）、竹ヶ原淳一（ホンダ熊本）
遊撃手：草野大輔（ホンダ熊本）、藤澤英雄（いすゞ自動車）、稲田直人（NKK）
外野手：今村直樹（ホンダ熊本（日産自動車九州））、後藤浩二（ホンダ熊本）、川崎博孝（NTT西日本）、佐々木剛（いすゞ自動車）、青山眞也（王子製紙（JR東海））
指名打者：佐伯真貴（いすゞ自動車）、岡部光則（サンワード貿易）

10年連続出場表彰選手
須田喜照投手（いすゞ自動車（東芝））
梶山義彦外野手（日産自動車（三菱ふそう川崎））
天野義明内野手（松下電器（日本生命））

応援団コンクール
最優秀賞：NTT東日本
優秀賞：ホンダ熊本
* 敢闘賞：いすゞ自動車

この大会は、社会人野球の過渡期における変化と、休部を迎えるチームの最後の奮闘、そして新たなチームの台頭が交錯する、記憶に残る大会となりました。

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