いて座ゼータ星

いて座ζ星（ζ Sgr / ζ Sagittarii）は、いて座の中で3番目に明るい恒星であり、肉眼でも容易に観測できる3等星として知られています。

この星系は、+3.26等級の明るさを持つA2型巨星と、+3.47等級のA4型準巨星という2つの恒星から構成される連星系です。これらの星は、平均距離13.4天文単位（au）の軌道を描きながら、互いの周囲を約21.075年の周期で公転しています。この軌道は楕円形であり、最も近づく近点では10.6au、最も遠ざかる遠点では16.1auとなります。

さらに、この連星系から約75秒離れた位置には、11等級の恒星が見られます。しかし、この恒星は過去100年以上の固有運動の観測結果から、いて座ζ星系とは物理的に関連のない見かけの二重星であると考えられています。つまり、単に同じ方向に見えているだけで、実際には非常に遠く離れた場所に位置している可能性が高いです。

名称

いて座ζ星には、「アスケラ（Ascella）」という固有名があります。この名前は、ラテン語で「脇窩」を意味する言葉に由来しています。中世にラテン語訳された天文学書『アルマゲスト』の中で、この星を示すために用いられたことが起源とされています。その後、この名前が一般的に使用されるようになりました。2016年9月12日には、国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループ（Working Group on Star Names, WGSN）によって、アスケラがいて座ζ星の正式な固有名として承認されました。

古代中国においては、いて座ζ星は玄武の南斗六星の6番目の星とされていました。これは、古代中国の天文学における星座の配置に由来するものです。


いて座ζ星は、夜空で比較的明るく輝く連星であり、天文学的な観測対象として重要な役割を果たしています。その連星としての性質や固有運動の研究は、恒星の進化や宇宙における星の分布についての理解を深める上で、貴重なデータを提供しています。

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