いのくままさお

猪熊正雄（いのくま まさお）

日本の映画カメラマン。本名、猪熊正太郎。1939年9月28日、満州に生まれ、2020年10月13日に逝去しました。

経歴

山口県の実家が菓子店を営んでいたため、当初は菓子職人を目指して1958年に上京。しかし、機械いじりが好きだったことから映像業界に興味を持ち、ムービーカメラのレンタル会社を経て、1971年に東映に入社しました。

当時は邦画が斜陽の時代であり、希望していた劇映画の撮影には携われず、東映テレビ・プロダクションの撮影部に配属されました。師匠である内田安夫の推薦もあって、テレビドラマ『特別機動捜査隊』などで経験を積んだ後、『東京ロマン 花と蝶』でカメラマンとして独り立ちしました。

その後、『人造人間キカイダー』に最年少スタッフとして参加。以降、主に東映の特撮番組の撮影を担当しました。特に特撮ヒーロー番組のエンドロールでは、最初に名前がクレジットされることが多く、平仮名表記の「いのくままさお」は、低年齢層にも広く知られるようになりました。

『バトルフィーバーJ』から『星獣戦隊ギンガマン』終盤まで、スーパー戦隊シリーズのカメラマンを務め、その後は『がんばれ!!ロボコン』の経験から『燃えろ!!ロボコン』を担当。そのまま『仮面ライダークウガ』以降の平成仮面ライダーシリーズにも参加しました。

平成仮面ライダーシリーズでは、『クウガ』から『鎧武』まで全ての作品で撮影監督を務め、2012年には『特命戦隊ゴーバスターズ』で13年半ぶりに戦隊シリーズのテレビ作品で撮影監督を担当。2014年公開の映画『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊』も手掛け、74歳を超えても第一線で活躍しましたが、『仮面ライダー鎧武』の32、33話を最後に撮影監督を引退しました。

東映プロデューサーの白倉伸一郎によると、当初は『仮面ライダーウィザード』最終話で引退する予定でしたが、白倉の熱意により『仮面ライダー大戦』の撮影監督として参加が決定したそうです。

エピソード

「いのくままさお」という平仮名表記のクレジットは、実家の菓子店の屋号が平仮名であることから、宣伝のために弟から改名を依頼されたことがきっかけでした。本名では字数が多いため、名前を「まさお」としたそうです。

数多くの特撮作品に携わっていますが、以前は「特撮には関わるつもりはなかった」と語っています。

『大戦隊ゴーグルファイブ』では、アクションシーンでハイスピードとスローモーションを繋げる演出を編み出しました。当時は編集技術が発達していなかったため、撮影時に感覚でスピードを切り替えていたそうです。

『仮面ライダークウガ』では、初めてビデオ撮影に挑戦しました。当初はビデオ撮影経験のあるカメラマンが担当する予定でしたが、急遽いのくまが担当することになり、最初は戸惑ったそうです。

『仮面ライダー555』の撮影中に、移動車が急に曲がって転倒し、胸を強く打つ事故に遭いました。しかし、痛みを堪えながらも病院からすぐに戻り、撮影を再開したというエピソードがあります。

『劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王』には、裁判官役でカメオ出演しています。

『仮面ライダーW』の撮影中に古希を迎え、撮影現場で仮面ライダーWに紫のちゃんちゃんこを着せられたそうです。

パワーレンジャーシリーズのプロデューサーが、東映の撮影現場を視察した際に、いのくまの引き抜きを要望しましたが、東映側がこれを断ったという逸話もあります。

仕事が非常に多忙でしたが、本人は仕事が好きだったため苦にならなかったと語っています。引退後は時間が余って困っているそうです。

俳優とのエピソード

多くの俳優から慕われており、特に若手俳優からは、いのくまから様々なことを教わったという声が多く聞かれます。

『電撃戦隊チェンジマン』に出演した柴田時江は、「アクティブ」「お世話になりました」と話し、クレジットでいのくまの名前を見ると涙が出そうになると語っています。

『超新星フラッシュマン』『地球戦隊ファイブマン』に出演した植村喜八郎は、いのくまの現場での仕事ぶりに感銘を受け、「ジャパン・アクション・カメラマン」と評しています。

『超新星フラッシュマン』『超獣戦隊ライブマン』に出演した中田譲治は、いのくまを「面倒見の良い方」と評し、ベテランの存在の貴重さを語っています。

『ライブマン』に出演した嶋大輔は、いのくまが爆発シーンを丁寧に説明してくれたこと、自らクレーンに吊られて撮影するなど、体を張っていたことを証言しています。

『地球戦隊ファイブマン』に出演した藤敏也は、撮影について教わるとともに励まされることも多く、いのくまに褒められることが自信につながったと語っています。

『鳥人戦隊ジェットマン』に出演した若松俊秀は、暴走した演技も「凱だからいいよ」と許されていたと語っています。

『五星戦隊ダイレンジャー』『仮面ライダー555』に出演した中康治は、いのくまを「いつも優しくて素晴らしい方」と評しています。

『超力戦隊オーレンジャー』に出演したさとう珠緒は、いのくまがどれだけカット数が多くても予定通りに撮影を終えていたこと、いのくまと照明部の連携を職人技と評しています。

『仮面ライダーアギト』に出演した友井雄亮は、いのくまから叱られたり、悔しい思いをすることもあったが、親父のように思っていたと語っています。

『仮面ライダー555』に主演した半田健人は、いのくまに「精神的に助けられた。あったかい人」と語り、ヒロイン役の芳賀優里亜も「元気をもらっていた。教育係のような存在だった」と語っています。

『仮面ライダーカブト』に主演した水嶋ヒロは、いのくまを「現場を変えてしまうすごい人」と評し、いのくまのような人間になりたいと冗談交じりに話しています。

『仮面ライダーキバ』に主演した瀬戸康史は、他の作品で共演した要潤や山本裕典と、いのくまについての話で盛り上がったそうです。

『仮面ライダー響鬼』『仮面ライダー電王』などに出演した中村優一は、『仮面ライダー×仮面ライダー×仮面ライダー THE MOVIE 超・電王トリロジー』で、いのくまと再会できたことを喜んでいます。

スタッフとのエピソード

助監督が監督へ昇格する過程を多く見守っており、デビュー作をいのくまが担当した監督も多くいます。

『快傑ズバット』などで長年コンビを組んだ田中秀夫監督は、いのくまのことを「3本の指に入るくらい頑固な監督」と評しています。一方で、いのくまも田中監督のことを「相当な頑固で譲らない時がある」と評しています。

戦隊シリーズを撮っていた頃に、助監督の中澤祥次郎に「お前が監督になったら俺がカメラマンをしてやる」と約束していましたが、中澤が戦隊の監督に昇進した時期には、いのくまは仮面ライダーシリーズに異動していたため、なかなか実現しませんでした。しかし、その約束は『仮面ライダーキバ』で実現することになりました。

玩具の販売促進のためにドラマを作ることに批判的な考えを持っており、作品の内容が玩具の販促に偏ってしまうことを懸念していたそうです。

監督の坂本太郎とは同じ年齢で家族ぐるみの付き合いがあり、『人造人間キカイダー』からの付き合いです。

監督の東條昭平も同じ年齢で、スーパー戦隊シリーズで12作品を共に制作しています。

監督の長石多可男とは旧知の仲であり、多くのエピソードを持っています。長石監督の感覚的な指示を若い俳優が理解できないとき、いのくまが長石の意図を汲んで俳優に説明することもあったそうです。

長石監督の葬儀では弔辞を読んでいます。

いのくまの弟子には、『大魔神カノン』でデビューし、『天装戦隊ゴセイジャー』で特撮カメラを担当した野村次郎がいます。

主な撮影作品

テレビドラマ

特別機動捜査隊
東京ロマン 花と蝶
プレイガール
五番目の刑事
宮本武蔵
男一番!タメゴロー
太陽の恋人
半七捕物帳
人造人間キカイダー
非情のライセンス
がんばれ!!ロボコン
燃える捜査網
忍者キャプター
快傑ズバット
冒険ファミリー ここは惑星0番地
がんばれ!レッドビッキーズ
スパイダーマン ([[東映)]]
燃えろアタック
それゆけ!レッドビッキーズ
宇宙刑事ギャバン
燃えろ!!ロボコン

スーパー戦隊シリーズ

バトルフィーバーJ
電子戦隊デンジマン
大戦隊ゴーグルファイブ
科学戦隊ダイナマン
超電子バイオマン
電撃戦隊チェンジマン
超新星フラッシュマン
光戦隊マスクマン
超獣戦隊ライブマン
高速戦隊ターボレンジャー
地球戦隊ファイブマン
鳥人戦隊ジェットマン
恐竜戦隊ジュウレンジャー
五星戦隊ダイレンジャー
忍者戦隊カクレンジャー
超力戦隊オーレンジャー
激走戦隊カーレンジャー
電磁戦隊メガレンジャー
星獣戦隊ギンガマン
特命戦隊ゴーバスターズ

仮面ライダーシリーズ

仮面ライダークウガ
仮面ライダーアギト
仮面ライダー龍騎
仮面ライダー555
仮面ライダー剣
仮面ライダー響鬼
仮面ライダーカブト
仮面ライダー電王
仮面ライダーキバ
仮面ライダーG
仮面ライダーディケイド
仮面ライダーW
仮面ライダーオーズ/OOO
仮面ライダーフォーゼ
仮面ライダーウィザード
仮面ライダー鎧武/ガイム


映画

スーパー戦隊シリーズ劇場版
仮面ライダーシリーズ劇場版
スーパーヒーロー大戦シリーズ


オリジナルビデオ

スーパー戦隊シリーズオリジナルビデオ
美少女戦士セーラームーン Act.ZERO

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