いぶり漬け

いぶり漬け（いぶりづけ）とは

いぶり漬けは、秋田県の内陸南部地方に伝わる伝統的な漬物です。大根を燻煙乾燥させるという独特の製法が特徴で、たくあん漬けの一種でありながら、その風味と製法は世界的にも珍しいとされています。特に「いぶりがっこ」という名称で広く知られていますが、これは元々、秋田県湯沢市の漬物店が1964年に発売した商品の商標でした。

歴史と背景

秋田県は、特に日本海側は湿度が高く、晩秋から初冬にかけて大根を収穫する時期に降雪があるため、一般的なたくあん漬けのように天日干しで乾燥させることが困難でした。そのため、大根を室内の梁に吊るし、囲炉裏の煙で燻すことで乾燥させる「燻り大根漬け」が考案されました。これは、雪深い地域における貴重な保存食として、古くから農家で親しまれてきました。

昭和30年代に薪ストーブが普及し、家庭で囲炉裏を使うことが少なくなると、「燻り大根漬け」を作る家庭も減りました。しかし、昭和40年代に入ると、秋田県内の漬物業者がこれを商品化し、「いぶりがっこ」や「いぶり大根漬」、「いぶりたくあん漬」、「いぶり漬」といった名称で販売されるようになりました。「がっこ」は、秋田県の方言で漬物を意味します。

横手市山内地域では、いぶり漬けの味を競う「いぶリンピック」が開催されており、クラシカル部門とフリースタイル部門でその技術と味を競っています。

製法

市販のいぶり漬けは、主に燻煙工程と漬込工程を経て作られます。燻煙工程では、楢や桜などの広葉樹の薪を使い、大根を昼夜2日以上かけて燻します。その後、ぬか床で40日以上漬け込み、発酵熟成させて完成します。製造業者によって独自の製法が用いられており、その風味が異なります。

かつては農家の副業として小規模な製造業者が多かったのですが、2021年6月に改正された食品衛生法により、専用の製造所の設置や営業許可の取得が義務付けられたため、廃業する事業者が増えることが懸念されています。

「いぶりがっこ」の商標問題

「いぶりがっこ」という商品名が一般に販売されるようになったのは、1967年頃とされています。株式会社雄勝野きむらやは、1983年と2009年に「いぶりがっこ」の商標登録をしています。しかし、この商標権を巡り、県内の後発業者団体と株式会社雄勝野きむらやとの間で対立が生じています。

雄勝野きむらやは、「いぶりがっこ」という名称自体も商標権に含まれると主張していますが、後発の秋田いぶりがっこ協同組合は、特許庁の判定で「いぶりがっこ」の名称は秋田県を中心に広く一般に理解されているとして、名称自体には商標権は含まれないと主張しています。

また、有限会社奥州食品も「秋田 奥州食品 いぶりがっこ」という文字が記された図形商標を登録しており、雄勝野きむらやが登録異議申し立てを行いましたが却下されています。

このように、いぶり漬けの名称を巡っては、様々な議論が続いていますが、特許庁の判断により、「いぶりがっこ」の名称を使用できる可能性が高まりました。

[地理的表示]保護制度

2019年5月8日、「いぶりがっこ」及び「Iburigakko」は、農林水産省により特定農林水産物として地理的表示 (GI) 登録されました（登録番号第79号）。これは、地域ブランドとして保護されることを意味します。登録されたいぶり漬けは、国内産の大根を使用することが条件となっています。

その他

いぶり漬けは、福神漬の代わりにカレーの薬味としても用いられることがあります。また、横手市山内三又では、特産品の山内にんじんを使った「いぶりにんじん」も作られています。

関連項目

あいがけ神代カレー
山内にんじん

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