ういろう (企業)

株式会社ういろう：500年続く小田原の老舗

神奈川県小田原市に拠点を置く株式会社ういろうは、医薬品と和菓子の両方を製造販売する歴史ある企業です。その歴史は、14世紀後半、元の滅亡を逃れて日本に渡来した中国出身の外郎家にまで遡ります。当初は博多で医師として開業した外郎家は、後に京都に移り、医薬業を営む中で家伝の薬「ういろう」が広く知られるようになりました。室町幕府の外交にも関与した外郎家は、16世紀初頭、一族や被官が小田原に移住し、家伝の薬「ういろう」の販売を開始しました。

小田原への定着と北条氏との関わり

外郎家の日本への渡来は、南北朝時代から室町時代にかけて盛んだった日中貿易の時代と重なります。多くの医者や薬種商が中国から帰化しており、外郎家もその一人でした。様々な史料から、外郎家の祖先が元の官僚であったこと、そして「ういろう」という薬を製造販売していたことがわかります。

小田原への移住については、諸説ありますが、北条早雲や北条氏綱に招かれた可能性が高いと考えられています。外郎家は、北条氏の城下町形成や経済発展に貢献し、薬「ういろう」の販売網を関東地方に広げました。小田原の東海道筋に店舗を構えた外郎家は、後北条氏時代には今宿（後の欄干橋町）を拠点とし、町役人として宿老を務めるなど、地域社会に深く関わっていました。

江戸時代の繁栄と「外郎売」

江戸時代に入ると、外郎家は小田原の有力な商人として、家伝の薬「ういろう」の独占販売を許されました。八ッ棟造りの特徴的な店舗は、東海道を行く旅人の目印となり、観光名所として賑わいました。独特な屋根と店頭の虎の飾りから、「虎屋」として親しまれ、『東海道名所記』や『東海道名所図会』などにも紹介されています。

この時代のもう一つの重要な出来事が、歌舞伎『外郎売』の上演です。江戸時代の行商人の早口言葉を元にしたこの演目は大ヒットとなり、ういろうの知名度を全国的に高めることになりました。

しかし、江戸時代には度重なる火災や地震に見舞われ、多くの歴史資料が失われました。また、「ういろう」の独占販売も、模倣品が出回るなど、容易ではなかったようです。

菓子「ういろう」の誕生と近現代

現在販売されている菓子「ういろう」は、2代目陳宗奇が外国の使節をもてなすために考案したと伝えられています。当初は薬「ういろう」の口直しとして作られたとされ、薬と同じく、材料や製法にこだわり、伝統的な製法を守り続けています。菓子「ういろう」の販売は明治以降から始まりました。

関東大震災で店舗を焼失するなど、幾多の困難を乗り越え、現在も薬と菓子の「ういろう」を製造販売しています。しかし、その歴史と伝統を守る一方で、「ういろう」という名称を巡る商標権問題にも直面しました。

商標権問題

「ういろう」という名称は、老舗としての歴史と伝統、またその薬としての歴史的背景が認められるものの、菓子としての「ういろう」は普通名詞化しているという判断から、商標権は認められませんでした。

現在

現在、ういろう本店は、八ッ棟造りの伝統を踏襲した建物で営業を続けています。薬局も併設され、伝統的な製法で手作りされた薬と菓子の「ういろう」を販売しています。また、「外郎博物館」を併設し、外郎家の歴史や文化を広く発信しています。25代目外郎藤右衛門は小田原観光協会の会長を務め、地域活性化にも貢献しています。

株式会社ういろうは、500年以上にわたる歴史と伝統、そして地域社会への貢献を礎に、これからも小田原を代表する企業として発展していくことでしょう。

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