うみへび座TW星

うみへび座TW星 (TW Hydrae)

TW Hydrae（うみへび座TW星）は、地球から約176光年の距離に位置する、若い恒星です。うみへび座の方向にあり、おうし座T型星に分類される爆発型変光星として知られています。この星の最も重要な特徴は、その周囲に広がる広大で質量豊富な原始惑星系円盤であり、現在進行形で惑星が形成されていると考えられています。

また、TW Hydraeは約10個の若い恒星で構成される運動星団、「うみへび座TWアソシエーション」の一員であり、この星団の名前の由来ともなっています。

恒星の性質

TW Hydrae自身の物理的性質を見ると、太陽と比較して質量は約0.7倍、直径は約1.08倍と、やや小さく軽い天体です。表面温度は比較的低温の3600Kで、スペクトル分類はK6Ve型とされています。これはスペクトル上ではK型主系列星に分類されますが、実際にはまだ主系列星となる前の段階であるおうし座T型星に分類されます。光度は太陽の約5分の1程度です。

原始惑星系円盤と惑星形成

TW Hydraeは誕生から約800万年と非常に若い星です。そのため、その周囲には大量の塵やガスからなる原始惑星系円盤が残されています。この円盤は木星の約50倍に相当する質量を持ち、中心星から最低でも約60億km（40au）の距離から始まり、最大で約330億km（220au）の半径まで広がっています。

2013年にハッブル宇宙望遠鏡によって行われた観測では、円盤の中心から約120億km（80au）の位置に、幅約30億km（20au）の明確な隙間が存在することが明らかになりました。この隙間は、その軌道で形成されつつある惑星が周囲の物質を重力的に掃き集めた痕跡であると解釈されています。比較的質量の小さな恒星の円盤で、これほど中心から離れた距離にこのような隙間が発見されたのは、当時初めてのことでした。

惑星形成理論との矛盾

しかし、この隙間の発見は、これまでの惑星形成に関する標準的な理論といくつかの矛盾を生じさせています。一般的に、惑星が形成されるには数千万年という長い時間がかかり、特に中心星から遠い領域ではさらに時間がかかると考えられています。しかし、TW Hydraeの年齢は約800万年と若く、この年齢で80auという遠距離に惑星が形成され、円盤に隙間を形成していることは、従来の理論からは説明しにくい現象です。

また、アルマ望遠鏡による観測では、中心星から約88億km（59au）よりも外側には、砂粒よりも大きな粒子が存在しないことが示されています。円盤の隙間の外縁部はこの領域に近いにも関わらず、そこに惑星が形成されつつあるという解釈は、粒子分布の観測結果と整合性が取れません。

一方で、重力不安定によって惑星が急速に形成される（数千年）という理論も存在しますが、この理論で誕生するのは地球の数百倍の質量を持つ木星型惑星であると予測されます。しかし、円盤の隙間から推定される惑星の質量は地球の6倍から28倍程度であり、これは地球型惑星から天王星型惑星に相当する質量であるため、この理論とも矛盾が生じています。現状では、これらの矛盾を解消する決定的な説明や観測結果は得られていません。

過去の惑星候補とスノーライン観測

かつて、2007年には視線速度法による観測で、中心星の非常に近傍（約610万km、0.041au）を3.56日周期で公転する木星の1.2倍の質量を持つ惑星が発見されたと発表されました。しかし、その後の2008年の研究により、視線速度の変化は惑星ではなく、おうし座T型星に特徴的な巨大黒点と恒星自身の自転によるものであることが判明し、この惑星の存在は否定されています。

TW Hydraeの原始惑星系円盤は、アルマ望遠鏡によって原始惑星系円盤におけるスノーライン（特定の分子が凍り付く境界線）が世界で初めて直接的に捉えられた場所としても特筆されます（2013年）。観測されたのは一酸化炭素のスノーラインで、一酸化炭素と反応しやすいN2H+分子からのミリ波放射を観測することで間接的に特定されました。N2H+が存在する領域は、一酸化炭素が氷として存在する場所を示唆します。この観測の結果、中心から約6.8億km（4.5au）から約45億km（30au）の範囲に主に水の氷が、それより外側には一酸化炭素の氷が存在することが明らかになりました。通常、スノーラインは円盤の非常に薄い赤道面にしか存在せず、観測が困難ですが、アルマ望遠鏡のN2H+ミリ波に対する高い感度によって観測が可能となりました。

確認された惑星と新たな構造

2016年には、原始惑星系円盤の中から一つの太陽系外惑星の存在が確認されました。この惑星は海王星よりもやや大きい質量を持ち、中心星から22auの距離を公転しています。

さらに2019年には、国立天文台などの研究チームがアルマ望遠鏡を用いて、円盤の中心から52auの位置に、長さ約4au、幅約1auの小さな電波源を発見しました。これは、既に形成されつつある惑星を取り巻く「周惑星円盤」であるか、あるいは円盤内のガスの渦に塵が集積して将来的に惑星へと成長する可能性のある構造のいずれかであると考えられており、TW Hydraeでの惑星形成の理解を深める上で注目されています。

これらの観測は、TW Hydraeが我々の太陽系のような惑星系がどのように形成されるかを理解するための、極めて重要な観測対象であることを示しています。若い円盤が示す複雑な構造や、既存の理論では完全に説明できない現象の発見は、惑星形成モデルのさらなる発展を促すものです。

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