お荷物小荷物・カムイ編

『お荷物小荷物・カムイ編』は、朝日放送（ABC）が制作し、TBS系列で1971年 12月4日から1972年4月15日まで放送されたテレビドラマです。前作『お荷物小荷物』（1970年10月～1971年2月放送）の続編にあたり、前作と同様に既成のドラマの枠にとらわれない「脱ドラマ」と評された異色の作品として知られています。

物語は、前作の終盤で滝沢運送のお手伝いを務めていた田の中菊が、自らの正体が今帰仁菊代であることを明かし、滝沢家の長男・仁の不正を暴露して故郷の沖縄へ帰ってから約10ヶ月後の出来事として始まります。ある日、滝沢家にもう一度お手伝いとして現れた菊は、しかし今回はアイヌの伝統的な装束を身にまとっていました。彼女の真の姿は、北海道の二風谷にあるアイヌ集落の首長・コシャマインの娘、オキクルミ・ピリカだったのです。

ピリカが再び滝沢家を訪れた目的は、滝沢家が北海道から持ち帰った一頭の若いヒグマを奪還することでした。このヒグマは、アイヌの人々にとって「カムイ」、すなわち神聖な存在です。カムイである子熊を取り戻そうとするピリカと、滝沢家の間で巻き起こる奇妙で騒がしい出来事が、本ドラマの核心的なストーリーを形成します。

制作陣には、脚本として佐々木守が名を連ね、ストーリー構成も兼任しました。演出は西村大介、井尻益次郎が担当。プロデューサーは山内久司が務め、前作『お荷物小荷物』が彼の出世作となり、後の「必殺シリーズ」誕生へと繋がる重要な布石となりました。美術は阪本雅信、音楽は佐藤允彦が担当。佐藤允彦による劇伴音楽には、放送当時はまだ珍しかったシンセサイザーが一部使用されていたことも特筆されます。

キャストには、主人公の田の中菊（オキクルミ・ピリカ）を中山千夏が演じました。滝沢家の人々として、長男・仁を河原崎長一郎、次男・義を浜田光夫、三男・礼を林隆三、四男・智を渡辺篤史、五男・信を佐々木剛が演じ、五兄弟それぞれの個性と葛藤が描かれました。父・孝太郎役は桑山正一、家長である祖父・忠太郎役は日本映画界の巨匠・志村喬が演じ、物語に重厚感を与えました。その他、コシャマイン役の佐藤慶や、戸浦六宏（近松千春役）、南風洋子（近松悌子役）ら個性的な俳優陣が出演しました。特に戸浦六宏演じる近松千春は、毛沢東を熱烈に崇拝する「マオイスト」という強烈なキャラクター設定でした。

本作の収録は大阪のABCセンタースタジオで行われ、当時の主流であった2インチVTRが用いられました。放送期間中にはいくつかの特異な出来事がありました。例えば、第5話（1972年 1月1日放送）は、ABCセンター敷地内のABCホールにて公開収録という形式がとられ、ドラマ本編と滝沢五兄弟による歌唱が披露されました。また、第16話（1972年 3月18日放送）に関しては、内容の一部がアイヌ民族に対する侮辱に繋がる可能性があるとして、北海道ウタリ協会から抗議を受け、北海道地区では放送が中止され、代替番組が放送される事態となりました。

社会的な話題を呼んだ本作でしたが、放送途中にスタートしたフジテレビ系のテレビ時代劇『木枯し紋次郎』が人気を博し、視聴率面で苦戦を強いられました。この結果、当初の予定よりも早く番組を終了せざるを得なくなりました。後番組も低迷したことから、朝日放送は視聴率巻き返しのため、テレビ時代劇『必殺仕掛人』を企画制作することになり、後の大人気シリーズへと繋がっていくことになります。

2012年には、番組初のオリジナルサウンドトラックCD「『お荷物小荷物』音楽編」（SUPER FUJI DISCS）が発売されました。これは朝日放送に現存するマスターテープから復刻されたもので、テーマ曲や劇中BGM、佐々木剛による挿入歌などが収録されました。付属のブックレットには、当時の関係者へのインタビューや脚本家・佐々木守のエッセイなどが掲載され、資料価値の高いものとなっています。

主要なスポンサーは、中外製薬、象印マホービン、味覚糖、清酒白鹿、江崎グリコなどでした。

関連事項として、戸浦六宏が演じた近松千春が毛沢東を崇拝し、『毛沢東語録』を常に携帯していたことが挙げられます。劇中では、近松が事あるごとに『毛沢東は言っている…』とその語録を引用する場面が印象的でした。

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