お蔭参り

お蔭参り（おかげまいり）とは

お蔭参りとは、江戸時代に起こった伊勢神宮への集団参詣のことを指します。別名、お蔭詣で（おかげもうで）とも呼ばれ、数百万人規模のものが、およそ60年周期（「おかげ年」と言う）に3回発生しました。また、お伊勢参りは抜け参りとも呼ばれています。

お蔭参りの特徴

お蔭参りの最大の特徴は、奉公人などが主人に無断で、または子供が親に無断で参詣したことでした。これが、お蔭参りが抜け参りとも呼ばれる理由です。大金を持たなくても、信心の旅ということで沿道の施しを受けることができた時代でもありました。

江戸からは片道15日間、大坂からでも5日間、名古屋からでも3日間、東北地方や九州からも参宮者は歩いて参拝しました。陸奥国釜石（岩手県）からは100日もかかったと言われています。

お蔭参りの語源

「お蔭参り」の語源は諸説あります。

天照大御神の「おかげ」で参詣を果たすことができたためとする説
天照大御神の「おかげ」で平和な生活を送ることができることに感謝をするためのお参りであるからとする説
* 道中での施行（せぎょう）など様々な人の「おかげ」で参宮を果たすことができたためとする説

また、「お蔭参り」という呼称が用いられ始めたのは、「明和のお蔭参り」以降のことです。

伊勢参りの歴史

伊勢神宮は、古代には国家的な経済基盤により支えられていましたが、平安時代に入るとその基盤が揺らぎました。そこで、神宮は荘園に対して課税を行い、領地の寄進も受けるようになりました。この際に、神宮の権禰宜らは御師として荘園の在地領主層に対して神宮への祈祷を行ったり、神宮の神威を説くなどして伊勢神宮の信仰を広げました。

鎌倉時代中期以降には、元寇における神風の伝承が広まったこともあり、次第に御家人や地頭級武士層へも広がり、その農村への影響力から農村の中下層にも徐々に伊勢信仰が浸透しました。

中世後期に入ると、戦乱などの影響もあり、神宮の社領も含め荘園制が崩壊に向かい、神宮が財政的危機に陥ったことから、御師の活動はさらに本格化しました。御師は布教に際して個人祈願を満たす現世利益的霊験よりも、伊勢神宮の国家神的性格を強調して喧伝しました。

江戸時代以降は交通網が整備され、参宮の環境が改善し、さらに広範囲かつ広い階層の参宮が行われるようになりました。また、道中での遊興施設や宿屋の充実などもあり、伊勢参りは観光の目的も含むようになりました。

抜け参りの背景

江戸時代には、農民の移動に規制がありましたが、伊勢神宮参詣を目的とする旅についてはほぼ無条件で通行手形を発行してもらえました。そのため、伊勢神宮参詣という名目が旅の口実として使われるようにもなりました。

また、女性や子供、奉公人など移動の制限があった人々も、「抜け参り」によって伊勢神宮に参詣することが可能でした。これは、国民は必ず伊勢神宮に参詣するべきという参宮の国民的義務観が徹底されていたことや、伊勢参りを止めた主人に対する神罰が強調されるなどしたことによるものでした。

お伊勢講とは

当時の庶民にとって伊勢までの旅費は大きな負担でしたが、それを解消するために「お伊勢講」という仕組みが生まれました。「講」の所属者は定期的に集まってお金を出し合い、それらを合計して代表者の旅費とするのです。誰が代表者になるかは「くじ引き」で決められました。

御師の役割

御師は、各地の伊勢講をにぎり、伊勢講員との間に師檀関係を結んで檀家を広げていきました。御師の活動は、数名ずつのグループに分かれて各地に散らばって農村部で神宮大麻や伊勢暦、その他伊勢の土産物などを配り、神宮の神威を説いて参宮を勧めたり、豊作祈願を行ったりするものでした。

お蔭参りが与えた影響

お蔭参りから帰ってきた者によって、最新のファッションや農具、音楽や芸能が各地に伝わりました。また、地域と階層を超えて人々が集まり、伊勢参りという共通の体験を得たことが、近世幕藩体制を超えて「日本人」や「日本」という民族意識・国家意識を醸成することに繋がったと指摘されています。

お蔭参りの変遷

お蔭参りは、江戸時代に数回発生しました。最も大規模だったのは、宝永、明和、文政の3回です。これらの時代には、数百万人もの人々が伊勢神宮を目指して旅をしました。

明治時代に入ると、伊勢神宮の性質が変容し、明治政府が御師の活動を禁じたために、民衆の伊勢神宮への参拝熱は冷めてしまいました。

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