お鉢巡り

富士山山頂のお鉢巡り：歴史、ルート、注意点、そして危険性

富士山登山において、山頂火口を一周する「お鉢巡り」は、多くの登山者にとって特別な体験です。この記事では、お鉢巡りの歴史、ルートの特徴、所要時間、そして潜在的な危険性について詳しく解説します。

お鉢巡りの歴史と由来

お鉢巡りがいつから行われるようになったかは定かではありませんが、富士講の隆盛とともに、信仰登山の一環として行われていたと考えられています。名称の由来については、山頂の八つの峰（八神峰）にちなむ「お八巡り」が変化したという説と、火口の形状が鉢に似ていることからという説があります。

かつては八神峰全てを巡ることを指していましたが、現在では危険な箇所があるため、峰の頂上を通らずに火口の周囲を一周するコースを「お鉢巡り」と呼んでいます。

ルートと所要時間

お鉢巡りの標準的な所要時間は1時間35分ですが、剣ヶ峰などでの休憩時間や疲労度合いによって、2時間以上かかる場合もあります。ルートの大半は傾斜が緩やかで体力はさほど必要としませんが、標高3700m以上の高地であるため、高山病に注意が必要です。十分な水分補給と、休憩を挟みながらゆっくりと歩くことをお勧めします。

ルート上には、日本最高地点である剣ヶ峰があります。また、久須志神社、虎岩、銀明水、富士山本宮浅間大社奥宮など、歴史的・文化的にも重要な場所が点在しており、それらはかつて富士講の信者にとって聖地として崇められていました。

近年では、7月に入っても残雪が多く、剣ヶ峰から時計回り側は通行止めになるケースが多いです。この場合は一周できず、吉田口山頂～富士宮口山頂～剣ヶ峰の往復となります。

お鉢巡りの危険性

お鉢巡りルートには、滑落の危険性のある場所が多く存在します。柵は一部区間しか設置されておらず、強風や雨、霧による路面状況の悪化は、滑落事故のリスクを高めます。夜間は視界が悪く、危険度が格段に上がります。過去には、悪天候下での登山中に命を落とした事例も報告されています。

道標は最小限しか設置されていないため、コースを逸れる可能性もあります。常に周囲の状況に注意し、安全確保を最優先に行動する必要があります。

時計回り、反時計回り

伝統的には、お鉢巡りは時計回りが一般的とされています。これは、明治以前の富士登山が仏教的要素が強く、聖地を右回り（時計回り）に巡る慣習（右繞・コルラ）に由来しています。また、多くの登山者が利用する吉田口・須走口から登頂した場合、時計回りに山小屋やトイレが配置されているため、自然と時計回りに巡る人が多くなっています。

しかし、幕末期の富士講の一派である小谷三志率いる不二孝（不二道）は、「お振り変わり」という逆転の発想から、反時計回りを推奨していました。

国内のお鉢巡りスポット

富士山以外にも、日本にはお鉢巡りのスポットがあります。代表的な例として、福島県福島市の吾妻小富士、長野県木曽郡木曽町の剣ヶ峰、大分県由布市の由布岳などがあります。これらの場所も、それぞれの地域における信仰や文化と深く関わっている場合が多く、興味深い歴史や伝説が伝えられています。

まとめ

富士山山頂のお鉢巡りは、壮大な景色と歴史的・文化的背景を同時に楽しめる貴重な体験です。しかし、高所という環境、気象条件の急変、そしてルートの危険性などを十分に理解し、安全に配慮した登山計画を立てることが不可欠です。事前に天気予報を確認し、十分な装備と体力、そして最新の登山情報を入手してからお鉢巡りに挑戦しましょう。

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