小谷三志

小谷三志（こだに さんし）

小谷三志は、明和2年（1766年）に武蔵国鳩ヶ谷（現在の埼玉県川口市）で生まれ、天保12年（1841年）に75歳で没した、江戸時代後期の宗教家、社会教育家です。本名は小谷庄兵衛といい、禄行三志、小谷禄行、鳩谷三志とも呼ばれました。彼は、富士講の一派である「不二道」を庶民に広めたことで知られています。

生涯

三志は、糀屋「河内屋」を営む小谷太兵衛の長男として生まれました。幼い頃から手習いを教え、宿場の年寄・問屋役を務めるなど、地域社会に貢献していました。また、鳩ヶ谷の富士講「丸鳩講」の先達（指導者）を務めました。

富士講は、富士山を信仰の対象とする山岳信仰の一種で、17世紀初頭に現れた長谷川角行を始祖とします。角行の教えは、村上光清派と食行身禄派に分かれました。食行身禄派は、実践倫理を重視し、日々の仕事に励むことが救いとなると説きました。三志は、食行身禄の教えを受け継ぐ伊藤参行に師事し、その教えを発展させました。

文化6年（1809年）、三志は、加持祈祷や白衣の行者姿での登山といった儀式に疑問を感じ、実践道徳を説く参行に師事しました。三志は、参行の教えをさらに発展させ、日々の実践道徳や日常生活での応用を重視しました。文政・天保年間には、諸国を巡って教えを広め、多くの人々を感化しました。

三志は、実践倫理の中でも「孝」を最も重視し、1838年（天保9年）には、富士講ではなく「不二孝」を行う「不二道」と称しました。公認を目指して京都で公家や文人にも接し、仙洞御所や九条公より記念品を賜ったとされています。

1841年（天保12年）に75歳で亡くなり、鳩ヶ谷浦寺の地蔵院（現在の慈眼寺）に埋葬されました。

死後

三志の死後、富士講は各派が乱立し、嘉永2年（1849年）には、寺社奉行により富士講が禁止されました。しかし、明治維新後に禁が解かれ、三志の教えは、弟子の醍醐寺理性院の大徳寺行雅によって神道化され、柴田花守が実行教を興し、教派[[神道]]として公認されました。一方、三志の教えに忠実な一派は、「不二道孝心講」を名乗り、公共事業や社会貢献に尽力し、1918年（大正7年）には、三志に従五位が追贈されました。

2006年には、地元鳩ヶ谷の研究者によって、消滅していた地元の講社「丸鳩講」が「小谷三志翁顕彰会」として復活しました。

地元鳩ヶ谷では、三志の三男が始めた鰻屋「湊家」が現在も営業を続けているほか、地元の和菓子店では三志最中が販売されています。

三志の教え

三志の教えは、親への孝を本旨とし、貧しい人を憐れみ、老人を労り、人と争わず、神仏を敬い、困っている人がいれば助け、道や橋を直し、博打をせず、酒や遊びに耽らず、それぞれの仕事に励むことを説いています。

また、当時の階級制度を前提とした上で、秩序と和合を重視し、土木事業の重要性や農業技術の改良を説きました。

三志は、伊藤参行の著した『おふりかはり（お振り変わり）の巻』『四民の巻』『ゑぼし山御伝解』などの教えを踏襲し、常識を逆転させて倫理を説く「振り変わり」の教えを実践しました。例えば、着物を左前に着たり、富士山の御中道を逆に回ったりしました。また、男女のあり方については、女性は水のように下がるものであり、男性は火のように上がるものであるから、和合を考えるなら女性を男性より優先すべきであると説きました。

富士山登頂

三志は、「行よりも徳」を唱え、富士山での難行苦行に疑問を呈しましたが、生涯に161回も富士登山をしたとされています。天保3年（1832年）には、女性信徒の高山たつを男装させて、女人禁制であった富士山登頂を成功させました。これは「振り変わり」の教えに基づいたものであり、集客や収入増を願う富士の御師たちの思惑もあったとされています。

関連人物

二宮尊徳 - 三志と交流があり、報徳思想に影響を与えたと言われています。
鈴木頂行 - 三志の弟子です。

関連資料

川口市立文化財センター分館 郷土資料館 - 三志関連資料を常設展示しています。
『鳩谷三志翁勧善録』 - 国学者高田（小山田）与清が三志の弟子から聞き取り筆記板行したものです。


三志の生涯と教えは、江戸時代の庶民の生活や信仰、社会構造を理解する上で重要な手がかりとなります。

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