八神峰

富士山頂の八神峰：歴史と信仰、そして名称の変遷

富士山頂には、八神峰と呼ばれる8つの峰があります。古くは富士八峰、八葉とも呼ばれ、仏教の八葉蓮華に由来するともいわれています。しかし、山頂のピークは数え方によって9から13程度あり、どの峰を八神峰に含めるかは、時代や資料によって異なっていました。

八神峰は、富士山頂の噴火口（大内院）の縁を形成する顕著な峰々に命名されたものです。中でも剣ヶ峰は日本最高峰として知られています。富士山を題材にした絵画などで見られる山頂部の突起は、この八神峰を表現していると言えるでしょう。本来、八神峰すべてを巡拝することを「お鉢巡り」と呼び、これは仏教の右繞（右回り）の礼法に基づいています。

八神峰の名称と仏教との関わり

各峰には、仏教に関連する名称が付けられていました。大内院には本尊として大日如来が祀られ、『八葉九尊』と称されることも一般的でした。山頂だけでなく、山内各所にも多くの神仏が祀られ、山小屋にも仏像が安置されていたという記録も残っています。

しかし、江戸時代の資料を調べてみると、八神峰の名称やそこに祀られた仏像には、複数の表記があり、混乱が見られます。例えば、『八葉九尊図』（延宝8年、1680年）では、中央に大日如来を配置し、周囲に阿弥陀如来、文殊菩薩など各仏を配置した図が描かれていますが、他の文献では、異なる仏像や名称が記載されています。

これは、登山ルートや記録者によって視点が異なっていたこと、信仰対象が時代とともに変化したことなどが原因と考えられます。

神仏分離令と名称の変更

明治時代の神仏分離令により、仏教由来の名称「八葉」は「八神峰」へと変更されました。しかし、その後も名称の混乱は続き、同じ峰に対して複数の呼称が混在する状況が長らく続きました。

深田久弥の『富士山』（1940年）で現在の名称に近い表記が用いられ、1971年の学術書『富士山 富士山総合学術調査報告書』でもほぼ統一された名称が使用されるようになりました。しかし、それでも浅間岳の別名として駒ヶ岳が使われるなど、完全に統一されたわけではありませんでした。

近年の名称整理

近年、世界遺産登録に向けた取り組みの中で、標識の統一を図るため、富士山本宮浅間大社に問い合わせが行われ、2010年にはガイドラインが制定されました。これに基づき、登山地図や標識の名称が変更され、現在ではほぼ統一された名称が用いられるようになっています。しかし、一部施設では旧来の名称を使用しているケースもあり、完全な統一には至っていません。

八神峰周辺の霊場

八神峰周辺には、多くの霊場が存在します。大内院（幽宮、お鉢、御内陣とも呼ばれる）は山頂の中心にある大きな火口で、浅間大社により禁足地とされています。鮗池、村山大宮拝所、虎岩、馬の背、親知らず子知らずなど、多くの場所が信仰の対象となっていました。これらの場所には、それぞれに関連する神仏が祀られており、信仰の歴史を感じさせる場所となっています。

まとめ

富士山頂の八神峰は、その名称や数え方、そこにまつわる神仏など、長い歴史の中で様々な変化を遂げてきました。近年の名称の整理によって、混乱は減少傾向にありますが、それでもなお、歴史的な背景や異なる視点から見てきた結果、複数の名称が残されている状況は、富士山の信仰の歴史の深さを物語っています。今後も、これらの名称の変遷や、八神峰周辺の霊場に関する研究が進むことで、富士山信仰のより深い理解が得られることが期待されます。

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