かいこう

かいこう：深海探査のパイオニア

概要

「かいこう」は、海洋研究開発機構（JAMSTEC、旧・海洋科学技術センター）が開発・運用した、世界で初めて11,000メートル級の深海探査を達成した無人探査機（ROV）です。有索式遠隔操作型の無人潜水機で、1990年代半ばの実用化以降、深海研究に大きく貢献しました。しかし、2003年の事故で探査機本体を失い、その後は7,000メートル級に改造された「かいこう7000」として運用が継続されています。

開発の背景

JAMSTECは、有人潜水調査船「しんかい2000」の運用経験から、支援母船、事前調査用ROV、事故時の救難用ROVの3点セットが深海調査の効率と安全性を高める有効な手段だと考えていました。「しんかい6500」の開発・運用開始（1991年）に伴い、その潜航深度（6,500メートル）に対応できるROVの必要性が高まりましたが、当時、そのようなROVは世界に存在しませんでした。そこで、「しんかい6500」の耐圧深度である10,000メートルに対応可能なROVとして、「かいこう」の開発が1986年に開始されました。

革新的な設計

従来のROVでは、母船と探査機本体を直接ケーブルで接続していましたが、「かいこう」では、大深度での潮流の影響を軽減するため、中間ランチャー方式を採用しました。母船と探査機本体の間にランチャー（中継機）を配置し、一次ケーブルと二次ケーブルの2段階で接続することで、ケーブルの自重による探査機の行動制限を抑制しました。この設計は、大深度探査における技術的な課題を克服する大きな一歩でした。

システム構成

「かいこう」システムは、以下の主要な要素から構成されていました。

船上装置: 操縦・制御装置、着水・揚収装置、ケーブルハンドリング装置、データ伝送システム、音響測位システムなど
一次ケーブル: 母船とランチャーを接続する光電力複合ケーブル。送電、制御信号の送受信、データ伝送を担います。
ランチャー: 音響調査装置（サイドスキャンソナー、地層探査装置）やCTDセンサを搭載し、ビークルの誘導・回収も担当しました。
二次ケーブル: ランチャーと探査機本体を接続する光電力複合ケーブル。
* ビークル（探査機本体）: スラスター、各種カメラ、マニピュレーターなどを装備し、海底調査や試料採取を行いました。

運用と成果

「かいこう」は、段階的な実海域試験を経て、1995年3月24日、マリアナ海溝チャレンジャー海淵で10,911.4メートルの潜航に成功しました。これは世界最深記録であり、深海探査技術の到達点として大きな注目を集めました。

「かいこう」は、マリアナ海溝への19回の潜航調査やインド洋での熱水活動発見など、多くの海洋学的成果を挙げました。また、対馬丸の船体発見、えひめ丸事故の遺留品回収など、社会貢献にも大きく貢献しました。

事故とその後

2003年5月29日、南海地震の長期観測データ回収中に二次ケーブルが破断し、ビークルを失いました。この事故を受け、JAMSTECは7,000メートル級ROV「かいこう7000」を開発し、深海調査能力を維持しました。「かいこう7000」はその後も改良が重ねられましたが、10,000メートル級の探査能力は失われたままとなっています。現在、JAMSTECは新たな10,000メートル級ROVの開発を進めています。

かいこうの遺産

「かいこう」は、深海探査技術の歴史において重要な役割を果たした探査機です。その技術的革新と数々の成果は、後の深海探査技術の進歩に大きな影響を与えました。事故による損失は残念ですが、「かいこう」の功績は、今後も深海研究の発展に貢献し続けるでしょう。

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