ぎょしゃ座デルタ星

ぎょしゃ座δ星：見かけの多重性と物理的な連星の二重構造

ぎょしゃ座の領域に輝く星の一つであるぎょしゃ座δ星（デルタ・アウリガェ、δ Aur / δ Aurigae）は、一見すると複数の星が集まっているように見える「多重星」として知られています。しかし、その実態は、単に視線方向が近いために並んで見えるだけの星々と、実際に重力で結びついた物理的な連星が混在する複雑な構造を持っています。

この星系の中心に見える最も明るい星は、主星Aと呼ばれています。この主星Aは、+3.83等級の明るさを持つ橙色のK型巨星に分類されます。望遠鏡でぎょしゃ座δ星を観測すると、この主星Aの近くにいくつかの暗い星が見えます。

具体的には、主星Aから124.4秒角離れた位置に+10.6等級の伴星Bが見えます。また、主星Aからさらに離れた195.5秒角の位置には、+10.1等級の伴星Cがあります。さらに、この伴星C自身も二重星であることが観測されており、伴星Cから94.3秒角離れたところに+11.4等級の伴星Dが存在しています。

これらの伴星B、C、そしてDは、主星Aとの間に重力による物理的な結びつきを持っていないと考えられています。すなわち、これらは単に地球から見て同じ方向にあるために近くに見えるだけであり、実際には遠く離れた無関係な星である可能性が高い、「見かけの重星」であると見なされています。

一方で、ぎょしゃ座δ星は物理的な連星系であることも判明しています。これは、複数の時期に行われた分光観測の結果、主星Aの視線速度（地球から見て星が近づいたり遠ざかったりする速度）が周期的に変動していることが確認されたためです。

視線速度の周期的な変動は、観測している星のすぐ近くに、目には見えない（あるいは見えにくい）別の天体が存在し、互いの重力によって共通重心の周りを公転していることを示唆します。このような連星は「分光連星」と呼ばれており、ぎょしゃ座δ星の主星Aも、このような物理的な伴星を持つ分光連星であることが明らかになりました。

多数の分光観測データを分析した結果、この物理的な連星系の公転周期は1283.4日（約3.5年）と見積もられています。また、軌道は完全な円形ではなく、やや歪んだ楕円形をしており、その度合いを示す軌道離心率は0.231と計算されています。この物理的な伴星がどのような天体であるか（例えば、別の恒星、あるいは惑星など）は、分光観測からは直接的には分かりませんが、主星Aと重力的に相互作用していることが示されています。

ぎょしゃ座δ星はまた、固有の名称を持っています。「プリジパティ（Prijipati）」と呼ばれるこの名前は、サンスクリット語で「創造の神」を意味するとされています。

このように、ぎょしゃ座δ星は、遠方にある無関係な星々が視線上に重なることで生じる「見かけの多重星」という側面と、物理的な重力によって結びついた天体同士が互いを公転する「分光連星」という側面を併せ持つ、構造的に非常に興味深い天体と言えるでしょう。

もう一度検索